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薬物違反で揺れ動く陸上界 ついに“リセット論争”が本格化!

1988年ソウル五輪の陸上女子200メートルで優勝したジョイナー
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 【高柳昌弥のスポーツ・イン・USA】私が至近距離で見た故フローレンス・ジョイナーさん(米国)はその時、厚めのファンデーションを使っていた。スポンサー関連の記者会見だったと思う。当然、着飾っていた。ただ、そのファンデーションでも隠しきれなかったものがあった。まだ老眼でなかった私の目(当時の視力は両眼ともに1・5)がとらえたのは彼女の鼻の下に残っていた濃いヒゲの跡。しばし絶句した記憶がある。もうひとつ印象的だったのは目の黄ばみ。のちにそれは来日したベン・ジョンソン氏(カナダ)の目の中でも発見した異様な色彩だった。

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 欧州陸上連盟が「厳格な基準を満たした世界記録だけを認可しよう」という動きを見せた。まん延する薬物違反の一掃を目的にしたムーブメント。男子走り幅跳びの世界記録保持者、マイク・パウエル氏(米国)は「これは侮辱だ」と激怒しているが、この提案は国際陸上連盟で審議されるようだ。「大会までの数カ月間に規定のドーピング検査を受けた選手のみが世界記録保持者になりうる資格を持つ」という新たなルール。だから自分が潔白であることがわかっている、あるいは信じている従来の記録保持者にとっては、大事な“宝”を奪われることに納得がいかないのだろう。

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 ジョイナーさんは1988年7月16日に100メートルで10秒49の世界新記録を樹立。その75日後には200メートルでも21秒34をマークして記録を書き換えた。それから29年が経過。この記録を更新するスプリンターはまだ1人もいない。

 1976年と1983年。女子100メートルの世界記録はそれぞれ2回更新されている。電動計時で100分の1秒まで正式タイムになったのでそれまでの世界記録を更新するのは驚くほど珍しい出来事ではなかった。ところが1988年以降、その“進化”は完全に止まってしまった。

 もっと古い記録も残っている。400メートル(47秒60)はマリタ・コッホ(旧東ドイツ)が1985年、800メートルはヤルミラ・クラトフビロワ(旧チェコスロバキア)が1983年に世界記録を樹立。この2人は以来、30年以上にわたって“頂上”に立ち続けている。

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 ジョイナーさんは1998年9月、心臓発作で死去。38歳の若さだった。当時、その死を薬物摂取による後遺症だとする報道が相次いだが、競技から離れている状況でその証明はできない。今回の欧州陸上連盟の動きに対し、夫であり三段跳びの五輪金メダリストでもあるアル・ジョイナー氏(米国)は「家族の名誉を傷つけるものだ。死ぬ気で闘う」と怒り心頭。気持ちは十分理解できる。どれほど努力したのかは当事者とその一番近くにいた人間にしかわからないから、ジョンソン氏と違って競技後のドーピング検査で陽性反応が出ていない以上、それを何も知らない第三者が勝手に排除しようとするのはルール上、間違っている。

 ただ書き換えられない記録が真実を語っているとも言える。あまりにも不自然であり、積み上げられた状況証拠が“推定有罪”を示唆している。だからこの問題の舵取りはとても難しい。ロシア選手の大量ドーピングに端を発した陸上界のリセット問題。再起動のキーを押すには、しっかりとした理論武装と的確な未来観、そして本当に偉大だったアスリートたちへの配慮と畏敬の念が必要だろう。 (専門委員)

 ◆高柳 昌弥(たかやなぎ・まさや)1958年、佐賀県嬉野町生まれ。上智大卒。ゴルフ、プロ野球、五輪、NFL、NBAなどを担当。スーパーボウルや、マイケル・ジョーダン全盛時のNBAファイナルなどを取材。50歳以上のシニア・バスケの全国大会に6年連続で出場。

[ 2017年5月14日 10:30 ]

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