「あと0秒01」で19年…「いつ出てもおかしくない」日本人初の9秒台

[ 2017年5月10日 09:30 ]

スタート練習を行う(左から)ケンブリッジ飛鳥、桐生祥秀、山県亮太
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 陸上日本男子100メートルの歴史的瞬間は訪れるだろうか。昨年リオデジャネイロ五輪男子400メートルリレー銀メダリストメンバーである桐生祥秀(21=東洋大)、山県亮太(24=セイコー・ホールディングス)、ケンブリッジ飛鳥(23=ナイキ)の3人を中心に繰り広げられる「日本人初の9秒台」を巡る熾烈(しれつ)な争い。現在、日本陸連の強化委員長を務める伊東浩司氏(47)が98年12月のバンコク・アジア大会で10秒00を出してから実に19年となる今季、選手やコーチを含む関係者一同は「いつ出てもおかしくない状況」と口をそろえている。

 3月にオーストラリアで今季初戦を迎えた桐生は1本目に10秒04(追い風1・4メートル)をマーク。同じ大会に出場した山県も1本目に10秒06(追い風1・3メートル)、2本目に10秒08(向かい風0・1メートル)と10秒0台を2本そろえた。4月に米国で3大会に出場したケンブリッジは風が強すぎて不運にも全て参考記録に。それでも、初戦は追い風5・1メートルで9秒98を記録し、世間の注目を集めた。

 桐生はその後も国内で不利な向かい風を受けながら、10秒08、10秒04と好記録を連発。男子400メートル日本記録保持者の高野進氏(東海大体育学部教授)は「昨季までであれば追い風1・5メートル以上の有利な風が吹けば大台を突破できる能力があったが、今や風の力に頼らなくても自力で出せる領域に入っている」と解説する。今季は「条件」にかかわらず10秒0台の好記録が次々と生まれていることこそ、待ちに待った日本人初の9秒台が現実味を帯び始めている何よりの証拠だろう。

 19年前に伊東氏が10秒00をマークしたレースは追い風1・9メートル。2メートルを超えると参考記録になってしまうだけに、当時本人は「風に恵まれた」と冷静な分析を示した上で、大会終了後に「9秒台は手に届くところにある」と意気込んでいた。だが、その後は重圧との戦いで、最後の五輪となった2000年シドニー大会のレースを終えると「9秒台への期待はとても1人では耐えられなかった」と吐露。最終的には02年5月に競技の第一線から退いた。その後も朝原宣治、末続慎吾、江里口匡史、塚原直貴らが9秒台に挑んだが、ことごとく10秒0台止まり。わずか0秒01の壁がこんなにも高いとは19年前に誰も想像しなかっただろう。

 今月13日のダイヤモンドリーグ上海大会(中国)では桐生、ケンブリッジ、サニブラウンの3人が対決する。同21日のセイコー・ゴールデングランプリ川崎には山県とケンブリッジが出場。9秒台はあくまでも世界への通過点にすぎないが、日に日に注目が集まっているのも事実。高野氏は「火山の噴火のように現在はマグマが地下にたまっている状況で、一度誰かが突破してしまえばどんどん結果は噴出するはず」とも話す。その瞬間を見逃すわけにはいかない。 (記者コラム・鈴木 悟)

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2017年5月10日のニュース