ついに一本化が実現する東京五輪のマラソン代表選考 裏を返せば…

[ 2017年4月8日 10:00 ]

00年シドニー五輪で両手を上げてゴールする高橋尚子
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 【藤山健二の独立独歩】2020年東京五輪のマラソン代表選考が、今までとは異なる方式で行われることが判明した。まず今夏から19年春までの各指定大会で一定の成績を収めた選手が19年秋以降に行われる代表選考会に進出。そこで上位に入った男女各2人は自動的に代表決定となる。残る1人は19年秋から20年春までに行われる国内大会に出場した選手のうち、陸連の設定記録を突破し、かつ最も記録のいい選手を選ぶ。いわば予選と決勝の2段階を通じて選手を選考する今回の方式には今のところ大きな反対もなく、今月中には正式に承認される見込みだ。

 五輪のマラソン代表はこれまでずっと、国内の複数レースと世界選手権の結果で選ぶ方式を踏襲してきた。代表は3人なのに選考レースは4つ以上。この数の違いが、毎回のようにトラブルが起きる原因となっていた。世論は選考会の一本化を求めたが、陸連は頑として首を縦に振らなかった。国内レースと世界選手権にはテレビや新聞を含む多くのスポンサーが絡んでいる。いずれも長年にわたってマラソン界の発展に貢献しており、どれか1レースだけを代表選考会に指定することは現実的ではなかった。

 強化サイドにも一本化を避けたい理由があった。メダルに一番近いと期待している選手がもし一本化された選考会で負けたらどうするのか、負ける以前に故障などで出場すらできなくなったら…。万が一の事態に備え、強化サイドが「ウルトラC」を発動できる余地を残しておくことは何より重要なことだった。

 それが今回、ついに一本化が実現するのなら素晴らしいことだとは思う。だがその一方で残念な思いも少しある。今回の方針転換は、これまでのように陸連が「ごり押し」してでも出したい有力選手が今の日本にはいないということの裏返しでもあるからだ。

 過去にたった一度だけ代表選考会が一本化された87年の福岡国際が、瀬古利彦の欠場で大混乱となって以降、陸連は一本化を完全に封印。その結果、五輪のたびに選考を巡る騒動が繰り返されてきた。だが今回は男女とも東京でメダルが獲れそうな選手は現時点で一人もおらず、万が一の保険を掛ける必要もない。それならばと「選手の育成」に重点を移した結果、行き着いた先が予選、決勝の2段階方式であり、実質初めてとなる選考会の一本化だったと考えれば納得がいく。

 本来ならもっと早く、有力選手が林立していた時代にこそ一本化を実現すべきだった。だが、遅きに失したとはいえ、一本化が持つ意味は大きい。東京五輪まであと3年。やっと実現する一発勝負が東京でのメダルにつながるように、選手たちの今後の頑張りに期待したい。(編集委員)

 ◆藤山 健二(ふじやま・けんじ)1960年、埼玉県生まれ。早大卒。スポーツ記者歴34年。五輪取材は夏冬合わせて7度、世界陸上やゴルフのマスターズ、全英オープンなど、ほとんどの競技を網羅。ミステリー大好きで、趣味が高じて「富士山の身代金」(95年刊)など自分で執筆も。

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