ボッチャ大会通じて見えた理想の未来 ボーダーラインなき世界へ

[ 2017年3月30日 11:00 ]

リオパラリンピック・ボッチャ混合団体BC1−2(脳性まひなど)決勝、銀メダルを獲得し笑顔を見せる(前列左から)広瀬隆喜、杉村英孝、藤井友里子、木谷隆行
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 「あのー、ちょっと大人げなかったんじゃないですか?」

 意地悪と知りつつ、どうしてもぶつけてみたくなった。その質問に、彼はこう答えた。

 「ハハハッ、そうですかねえ。でも、競技の魅力を知ってもらうためには、本気出さないとダメでしょ?」

 この問答を展開したのは、3月18日に行われた「ボッチャ東京カップ」が行われた東京・北区の赤羽体育館。彼とは、昨年のリオデジャネイロ・パラリンピックで銀メダルを獲得したボッチャ日本代表「火の玉ジャパン」の中心選手、広瀬隆喜だ。

 初開催されたこの大会、企業や一般人が結成したクラブに火の玉ジャパンを加えて、12チームが参加した。改めて明記しておくと、火の玉ジャパンは障がいの程度の違いはあれ、全員が車いすプレーヤー。他の11チームは健常者の集団だ。白いジャックボールにどれだけボールを寄せるかで試合を決するボッチャは、障がいの有無も年齢も「ハンデ」の対象ではない。「史上初のインクルーシブ大会」を名乗ったのだが、インクルーシブ=包括的。つまり、すべてごちゃまぜで戦えるということだ。

 だからこそ、障がいを持つトッププレーヤーが、経験の浅い健常者を、それこそ「こてんぱん」にやっつける試合が見られた。全試合で1失点という圧倒的強さで優勝を飾ったのは火の玉ジャパン。広瀬は「僕らの持っている技術を見せられたかな」とニヤリと笑ったのだ。

 これはなかなか、痛快なのではないのか。

 そう思ったから、もう1つ、意地悪な質問をしてみた。

 「健常者がボッチャの経験を積んで、どんどん実力を上げてきたら、どうします?いつか抜かれたりして…」

 うーん、うふふ、と笑った広瀬は、こう返してきた。

 「いろんな人が技術を磨いてレベルの高い試合ができるようになったら、さらに僕らのレベルも上がっていくでしょう」。

 その考え方には、前提としての「障がい者」とか「健常者」のボーダーラインはなかった。ボッチャという触媒を通じて見えたのは、理想の未来だったのかもしれない。(首藤 昌史)

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2017年3月30日のニュース