身長175センチでNBAの得点王を狙う「小さな巨人」の肉体

[ 2017年2月20日 10:00 ]

セルティクスのトーマス(AP)
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 【高柳昌弥のスポーツ・イン・USA】今やセルティクスの大黒柱となったアイゼイア・トーマス(27)は球宴前までの前半戦で1試合平均29・9得点を稼いだ。1位のラッセル・ウエストブルック(28=サンダー)とは1・2点差のリーグ2位。後半戦の成績次第では史上最低身の得点王が誕生する可能性も出てきている。

 ドラフト時に計測された身長は5フィート8・75インチ。日本式には174・8センチということになる。NBAの小柄な選手には付きもののずばぬけた跳躍力があるのだろうと思われるかもしれないが、ステップなしの垂直跳びは80センチ。もちろん一般男性からすればジャンプ力はあるが、NBAではさほど目立った数値ではない。

 リーチはそこそこある。両手を広げると右手の指先から左手の指先(ウイングスパン)までは187センチ。身長よりも約12センチほど長い。両手を上にかざした時の指先の位置(スタンディング・リーチ)は232センチだから、助走をしなくても垂直跳びだけで10フィート(305センチ)の位置にあるリングに手は届く。

 ただしなぜ小柄な彼が土壇場でチームを支える“クラッチ・プレーヤー”なのかという肉体的な裏付けにはならないだろう。では体脂肪?いやいやそれも6・7%。マイケル・ジョーダン(元ブルズ)が3%台だったことを考えると、まだ余分な脂肪分?を抱えている。

 さてあとは推測になるが少し考えてみた。トーマスの身体検査で目立つのは体重だ。現在185ポンドで換算すると83・9キロ。あと数キロ増やせばNFLのランニングバック(RB)でもやっていける“中身”を持っている。日本のBリーグで同じサイズの選手のプロフィルを見ると75キロと書かれていた。つまりトーマスは最も運動量があるポイントガードとしては重い部類に入るのだ。

 シュート力を含めた個人的なスキルはもちろん卓越しているが、トーマスの真骨頂は最初の一歩で相手を抜いてしまうムーブ。背は低いがマッチアップした選手の両脚の位置を読み取って、相手が最もバランスを崩しそうな位置に的確に“第一歩”を入れてくる。さらにそこからランニング・ステップに入る加速力が明らかに違う。それを嫌って相手が後ろに引くと、今度は3点シュートを打ってくるから守る側からすると実にやっかいな選手だ。

 では「重さ」はどこに集中しているのか?たぶんそれは加速力を生む太腿と大臀筋、さらに股関節を動かす腹部深層筋に凝縮されているのではないかと思う。その一方で瞬発力を生む腓腹筋(ふくらはぎ)には無駄な部分がひとつもないはず。でなければあの瞬間移動は生まれてこない。彼の脚とお尻と腹部を触らないとわからないが、筋肉構成は日本選手とはかなり違っていると思う。

 もう一つ、丈夫な部分が見えてくる。それは心臓。この体重で過酷なまでに動くポイントガードを務めると心臓への負担が大きい。それをなんなくクリアしているということは、トーマスの心臓は機能的にとてもしっかりしているということ。細胞学的な強さだけでなく、精神的な心臓の強さもあるからこそ、セルティクスは大詰めになると彼にボールを集めるのだと今は理解している。

 2011年ドラフトの最終60番目の指名選手。サイズが小さいゆえに指名順は遅かった。しかも指名したキングス、その後FAで契約したサンズはその後、彼には見切りをつけた。そして今、彼は球宴に選ばれて得点ランキングで2位。セルティクスの“目利きの良さ”はリーグ発足時から有名だったが、現在もその財産は受け継がれているようだ。

 さあどうでしょう、その辺にいらっしゃる175センチの選手諸君。あなたはもしかしたらNBAの得点王になれる逸材であることを知らないままにプレーしてきませんでしたか?トーマスにできてあなたにできない理由とは何でしょう。それを少し考えてみましょうよ!(専門委員)

 ◆高柳 昌弥(たかやなぎ・まさや)1958年、佐賀県嬉野町生まれ。上智大卒。ゴルフ、プロ野球、五輪、NFL、NBAなどを担当。スーパーボウルや、マイケル・ジョーダン全盛時のNBAファイナルなどを取材。50歳以上のシニア・バスケの全国大会に6年連続で出場。

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