バージニア・コモンウェルス大が見せた残り0・4秒からの奇跡

[ 2017年2月15日 11:00 ]

 【高柳昌弥のスポーツ・イン・USA】日本のバスケットボール指導者の方々に聞いてみたい。今、あなたのチームは1点負けていて残り時間は0・4秒しかありません。プレー再開は自陣エンドラインからのスローイン。さてどうしましょう?

 たぶんほとんどの方が「ロングパスを投げて誰かに“キャッチ&シュート”をさせる…」ではないだろうか。ボールを受けてすぐにシュートできる最少時間は0・3秒。だから可能な戦術であり、入ればブザービーター。なるほどそれは妥当な策だろう。しかし2月8日、日本の渡辺雄太(3年)が所属しているジョージ・ワシントン大と対戦したバージニア・コモンウェルス大(VCU)は同じ状況の後半の残り0・4秒からまったく違う方法で試合をひっくり返した。しかも0・1秒さえも使わずに…。

 試合はその残り0・4秒、実は渡辺が起死回生の3点シュートを決めて53−52と逆転していた。リプレー・チェックの結果、時間はまだ残っていてプレーは再開。しかしどうみてもジョージ・ワシントン大の勝利は確実だった。

 最後は相手のロングパスになると判断。ジョージ・ワシントン大はスローインをしようとしたVCUのジャスティン・ティルマン(3年)の前に2メートル11のコリン・ゴス(2年)を立たせた。パスを妨害するために巨大な“壁”を最前線に置き、何もかもが万全のように思えた。

 しかしVCUはロングパスをしなかった。ボールを入れるべきリングは90フィート(約27メートル)も先にあったが、キャッチした瞬間のパス&シュートという選択ではなかった。

 まずティルマンがエンドラインを右にするすると移動。当然、そのスローインを妨害しようとしていたゴスもついていった。そのゴスの走路に何食わぬ顔でこっそり入り込んでいたのがVCUのジェイクワン・ルイス(4年)、1メートル85の小柄なガードだった。

 ティルマンの動きしか見ていなかったゴスはルイスの姿は視野にとらえきれなかった。だから立っていたルイスにドスンと衝突。体格で劣るルイスは後ろに倒れた。これでゴスは反則をコールされ、VCUにフリースローが与えられる。つまりロングパスどころか、スローインさえも行われなかったのだ。そしてルイスはフリースローを2本とも成功。スコアは54−53となってVCUが勝った。ジョージ・ワシントン大は当初、渡辺のブザービーターで勝ったと信じ、コートに倒れ込んで歓喜していたが、すぐに天国から地獄に突き落とされた。

 邪道な戦術?そう思う方もいるかもしれないが、タッチ&シュートに持っていける限界に近い持ち時間しかなかったVCUにとって、最後に使ったのはパスではなく頭だった。ウィル・ウェイド監督はまだ34歳。経験は浅いが、座布団一枚では足りない見事な“オチ”だった。

 VCUは4日のセント・ボナベンチャー戦でも2点をリードして迎えた後半の残り0・4秒に逆転の3点シュートをくらっている。ところが渡辺同様、ブザービーターと信じ込んだ相手のファンがコートになだれこみ、試合を妨害したと判断されてテクニカル・ファウルをコールされた。そしてVCUは与えられた1本のフリースローを決めて延長に持ち込み、結局83―77で勝利を収めた。

 2試合連続で0・4秒からの大逆転。プロセスは違うが「最後まであきらめてはいけない」という強い思いはどちらの試合にもあったのではないだろうか…。

 追い詰められたときにどうするのか?それはどんなスポーツでも大事な自らへの問いだ。さてあなたのチームは、そのときどれだけの“引き出し”を持っていますか?それがもしかしたら勝敗を分けるかもしれませんよ。(専門委員)

 ◆高柳 昌弥(たかやなぎ・まさや)1958年、佐賀県嬉野町生まれ。上智大卒。ゴルフ、プロ野球、五輪、NFL、NBAなどを担当。スーパーボウルや、マイケル・ジョーダン全盛時のNBAファイナルなどを取材。50歳以上のシニア・バスケの全国大会に6年連続で出場。

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