「代表」とはどうあるべきか 竹内と川内の言葉

[ 2017年1月15日 10:30 ]

ソチ五輪スノーボード女子パラレル大回転で銀メダルに輝いた竹内智香
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 五輪や世界選手権といったグローバルな最高峰の大会を見据える個人競技のアスリートにとって「代表としての活動」と「個人での行動」のバランスは重要な問題の1つである。連盟や協会が自らの競技を統括して運営してくれているからこそ、国を代表して世界大会に出場できる。その一方で、組織の運営に縛られることによって「自らの能力を最大限に発揮することができない」と、不満を抱くアスリートもいるのではないだろうか。

 ソチ五輪スノーボード女子パラレル大回転で銀メダルを獲得した竹内智香は常に組織に対して疑問を投げかけ、行動してきた1人である。世界レベルのアスリートに少しでも追い付くべく、07年から日本チームを飛び越え、当時強豪だったスイスチームに単身乗り込んだ。独自のやり方で自らを向上させてきた一方で、ソチ五輪前に外国人コーチから「メダルを獲りたいなら日本の中で応援されて戦うことが大事」と諭されて以来、日本で活動することも重視した。まさに個人の行動と代表の活動を調和させ、メダル獲得へとつなげた例である。

 そんな竹内は、昨年相次いだ未成年選手の不祥事を受けて全強化指定選手の活動が一時休止となった現在の日本スノーボード界に対しても正直な意見を述べた。第三者委員会の調査で行動規範違反がなかったと判断された竹内ら一部選手は活動再開が認められた一方で「(処分は)衝撃的だった。(昨年のW杯)初戦の2日前まで出られるか分からず気持ちの浮き沈みを抑えるのが難しかった」と振り返る。

 「開幕戦で他の選手たちは100%の準備をしているのに私は別の体力を使わないといけなかった。気持ちとしては私が見てきた海外のナショナルチームは世界で戦うためのチームであって、人間教育をする場ではない。18年間いる中であまり進化していないのが悲しい」。そして「またしっかりと結果を残して競技のイメージ向上も頑張っていきたい」とも言った。それはスノーボードを愛する全ての人々に対し、様々な経験をしてきた竹内なりのメッセージだった。

 “公務員ランナー”川内優輝もまた個人と代表の狭間で葛藤してきたアスリートの1人だろう。ナショナルチームの選手が凡タイムで走るたびに苦言を呈し「入るメリットよりもデメリットの方が大きい」と自ら辞退。独自の考えのもと100キロや50キロ走を取り入れ、毎週のようにレースを求め国内国外を転戦し、実業団主体だった近年の日本マラソン界の常識を覆し続けてきた。昨年12月の福岡国際マラソンでは日本人トップの3位に入って今年8月の世界選手権代表の有力候補となり、年末年始はロンドンの本番コースの試走に出向いた。

 一方で「代表に選ばれることが目的じゃない。代表に選ばれて戦うことが目的」と日本代表に特別な意識を持っている。「代表に選ばれなくても僕が現地に行ってつかんだ情報はみんなと共有したい。チームジャパンですから」と日本陸上界が世界で結果を残すためになら何でもするという意識も兼ね備えている。

 過去の固定概念や組織の考え方にとらわれることはないが、決して自己中心的な発想ではない。竹内と川内という自立した2人の言葉を聞いて感じたことは競技への純粋な愛情と、その将来を本気で考えているということ。今後も、アスリートの一歩踏み込んだ勇気ある発言や行動に耳を傾けていきたい。 (鈴木 悟)

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2017年1月15日のニュース