リスタートした五輪戦士たち 東京五輪に直結しない大会で悟った“課題”

[ 2016年12月4日 10:35 ]

男子60キロ級の表彰式で決勝の映像を見ながら悔しがる高藤直寿(左)と優勝した永山竜樹
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 何かを始めるより、何かをリスタートする方が難しいのではないか。そう思っていた。柔道のグランドスラム(GS)東京大会が行われている。リオデジャネイロ五輪終了後行われたものでは、最大級のツアー大会。各階級4人が出場できる(通常は2人)ホームの利があった日本にあって、男女計14階級の五輪代表でこの大会を再出発の場としたのは男子2人、女子3人。他の選手は長期休養に入っていたり、調整過程でけがを発症したりで不在だった。

 4年間、命を削るほど打ち込んだ大目標終了後、コンディションを再び整える難しさは、想像を絶する。ましてや、トップアスリート同士の激戦は、常にけがの可能性をはらむ。ちょっとした集中力の欠如は、選手生命にも影響を及ぼしかねないわけだから、慎重になることは理解できる。さらに現行ルールでは、五輪出場権に関係する世界ランクのポイント有効期限は2年間。つまり、この大会で稼ぎ出したポイントは、東京には直結していない。

 その一方でリオ出場を惜しくも逃した国内の強豪選手は、大きなチャンスをモノにしようと必死だ。GSクラスの大会で勝てば、立ち位置は大きく向上する。若い選手は優勝や海外の強豪を倒すことで自信を手に入れ、勢いを加速させる。追う者の勢いは、追われるものにはないストロングポイントであることは、いつの時代も変わらない。

 五輪代表になった選手たち、つまり日本国内でトップに立つ選手にとって、自らの立ち位置を守る手段の1つが「若い芽は早めに摘む」ということだろう。今回の大会に出場した5人のリオ代表のうち4人はメダリスト。4年後に向け圧倒的に階級をリードしているはずの選手がここに出たきた以上、やはり狙いはライバルにフタをすることだったに違いない。

 しかし、そうはうまくいかないのもまた、勝負の世界。初日に登場した男子60キロ級の高藤、48キロ級の近藤はともに優勝を逃した。しかも、負けた相手はともに日本勢。それでも2人の五輪代表に共通していたのは、ある種の満足感と次の試合に対する意欲だった。「休んで弱くなっているんじゃないかと思っていたけど、やっぱりここで生きていくしかないんだなと思った」(高藤)。「投げられて負けて課題がはっきりしたのが良かった」(近藤)。

 リスタートの負けをつまずきととらえるのではなく、モチベーションへと変えられること。それも大きな才能だろう。ともに初五輪は銅メダルに終わった2人の4年後へのリベンジロードは、が然、楽しみになってきた。(首藤 昌史)

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2016年12月4日のニュース