東京五輪の会場見直し問題 小池知事最大の誤算は

[ 2016年12月2日 09:40 ]

4者トップ級会合で発言する小池百合子東京都知事。手前は2020年東京五輪・パラリンピック組織委の森喜朗会長
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 【藤山健二の独立独歩】20年東京五輪・パラリンピックの会場見直し問題が決着した。小池百合子都知事が華々しく打ち上げたボート・カヌー会場の宮城・長沼移転は消滅し、都内臨海部の「海の森水上競技場」に逆戻り。水泳会場も現計画の「五輪水泳センター」(江東区)を観客席を縮小して建設。唯一、バレーボール会場だけは結論が先送りされたが、これも当初予定の「有明アリーナ」(新設)に落ち着く公算が大きい。合わせて300億円もの経費削減にはこぎつけたものの、結果だけを見れば小池知事の「完敗」だろう。

 都知事選の勢いに乗り、豊洲問題と並んで都民の関心が高い五輪の経費削減に切り込んだ小池知事の判断自体は間違いではなかったと思う。だが、スポーツには政治の世界とは違う複雑なしきたりやルールがあるということまでは知らなかったようで、事前に競技団体や組織委員会、さらには地方自治体と何の調整もせずにいきなり会場変更案を打ち出したために、各方面から猛烈な反発を受けることになった。それでも当初は自ら長沼ボート場の視察に赴くなど世論の人気を背景に自信を見せていた。だが、そこに最大の誤算が生じた。国際オリンピック委員会(IOC)バッハ会長の来日だった。

 IOCは国際競技団体、組織委と普段から連絡を密にしており、当初から変更前の計画を支持していた。案の定、バッハ会長は長沼移転に難色を示し、IOC、都、組織委、政府の4者協議を提案。開催都市と組織委の会合にIOCが参加することは異例で、その段階ですでに結論は見えていた。予想どおり、会議で小池知事は完全に四面楚歌となり、他の3者に押し切られた。

 もともと経費削減はIOCも組織委も賛成で、各方面に事前に調整してから会場変更案を公表していれば、また違った結果になった可能性は十分にある。先にアドバルーンをぶち上げてから調整を図る小池知事と、事前に下交渉をしてから動く森会長の政治手法の違いと言ってしまえばそれまでだが、国内外の多数の組織が複雑に絡む今回の会場問題では小池流のやり方が裏目に出たことは否めない。

 ただ、今回の問題のおかげで一つわかったことがある。まだ経費削減は可能だということだ。ボート・カヌーと水泳だけであっという間に300億円もの削減が実現したのだ。こんなに簡単に削減できるならなぜ今までやらなかったのか、だったら他にもまだ削れる会場があるのではないかと思ったのは私だけではないだろう。

 五輪を成功させたいという気持ちは皆同じなのだから、都と組織委、IOCの間に勝ったも負けたもない。雨降って地固まるではないが、これを機に各組織が団結し、さらなる経費削減に取り組んでほしいものである。(編集委員)

 ◆藤山 健二(ふじやま・けんじ)1960年、埼玉県生まれ。早大卒。スポーツ記者歴34年。五輪取材は夏冬合わせて7度、世界陸上やゴルフのマスターズ、全英オープンなど、ほとんどの競技を網羅。ミステリー大好きで、趣味が高じて「富士山の身代金」(95年刊)など自分で執筆も。

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