トランプ氏とスポーツ界の関係は?政治もスポーツも未経験の次期大統領

[ 2016年11月12日 09:00 ]

キャバリアーズのジェームズ(AP)

 【高柳昌弥のスポーツ・イン・USA】米大統領選挙でドナルド・トランプ氏(70)の当選を朝起きて知ったNBAキャバリアーズの大黒柱、レブロン・ジェームズ(31)のコメントが印象的だった。投票2日前にヒラリー・クリントン氏(69)の応援演説に加わっていたスーパースター。すっかり女性初の米大統領誕生を信じてやまなかっただけに「何が起こったのかわからなかった」と朝からあわてふためいたという。

 「マイノリティーと女性たちはこれが終わりでないことを知ってほしい。やっかいな障害物だが我々はこれに打ち勝つのだ」と名前こそ出していないがトランプ氏への嫌悪感がありあり。NBAは全選手の76%が黒人とあって、白人至上主義ともとれる同氏のふるまいや発言には辟易しているのだろう。

 NFLでも黒人が68%を占め、トランプ氏が敵視しているイスラム系も多数いる。「壁」の外に追い出そうとしているヒスパニック系は大リーグでは29%も在籍しており、支持を得るのは選挙以上に難しい。

 優勝した時には試合直後に大統領がチームの主力選手に対して祝福の電話をかけ、ホワイトハウスへの表敬訪問も恒例となっているのだが、すでにこの“ルーティン”が継続されるのかどうかも不透明。せっかく電話がかかってきたのに「選手に保留ボタンを押されるのでは?」と揶揄(やゆ)する声もある。

 クリントン氏はファーストレディー時代、96年アトランタ五輪の開会式に出席。実現はしなかったがニューヨークの夏季五輪招致にもひと役買ったことがある。それに対してトランプ氏にはここにいたるまでスポーツ界に積極的に足を踏み入れた実績が何ひとつない。2024年夏季五輪の最終候補都市はパリ(フランス)、ブダペスト(ハンガリー)、ロサンゼルス(米国)の3つで、来年9月にペルーのリマで開かれる国際オリンピック委員会(IOC)の総会で開催地が決定する。さて最後のプレゼンテーションでは各国のリーダーが壇上に立つのが慣例になっているのだが、トランプ氏はどうするのだろう?

 そもそもロサンゼルスがあるカリフォルニア州は、共和党ではなく民主党の地盤で、トランプ氏にとっては選挙で敗れた州のひとつ。すでに同州オークランドでは「反トランプ」のデモが発生しており、ヒスパニック比率の高いロサンゼルスでもトランプ氏は「憎き敵」でしかない。仮にこの状況に目をつぶって「ロサンゼルスをお願いします」と訴えても、今度は浅いスポーツ歴が災いして説得力に欠けるスピーチになってしまうのは避けられない。

 選挙運動期間中にはほとんど耳にすることがなかったスポーツ・トーク。ジェームズに障害物とまで言われてしまった次のリーダーだが、今こそ対立候補への非難と中傷以外の言葉を聞いてみたい。そうでないと、この世界での“マイナー降格”は避けられないと思うのだが…。(専門委員)

 ◆高柳 昌弥(たかやなぎ・まさや)1958年、佐賀県嬉野町生まれ。上智大卒。ゴルフ、プロ野球、五輪、NFL、NBAなどを担当。スーパーボウルや、マイケル・ジョーダン全盛時のNBAファイナルなどを取材。50歳以上のシニア・バスケの全国大会に6年連続で出場。

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