リオ・パラリンピックで得たものを4年後に生かすために

[ 2016年11月1日 11:35 ]

メダルを手に笑顔を見せるリオパラリンピック日本選手団(前列左から)斎田、国枝、上地、大槻団長、藤本主将、佐藤友、池、庄子(中列左から)山田、木村、山本、藤田、鹿沼、田中、道下(後列左から)津川、中島、芦田、佐藤圭、多川、辻、岡村

 【藤山健二の独立独歩】リオデジャネイロで行われたパラリンピック大会が閉幕してから1カ月が過ぎた。各方面でさまざまな検証が始まっているが、先日、日本財団のパラリンピックサポートセンター(通称パラサポ)が現地で実施した調査報告書と日本選手団へのアンケート結果が公表された。前者は観客目線、後者は選手目線での検証という位置づけで、4年後の東京大会へ向けてハード、ソフト両面で参考となるような貴重な意見が多数寄せられた。

 まず観客目線で一番重要になるのはアクセシビリティ、つまり障がいを持つ人々がいかにすんなり会場まで移動できて観戦を楽しめるか、だ。リオでは主にBRTバスが利用されたが、実際に現地で調査したパラサポ顧問の垣内俊哉氏によると、バス停へアクセスする陸橋のスロープに6~7度もの傾斜があり、しかも長さが60~80メートルもあるためバスへ乗るまでが大変だったという。日本のスロープはほとんどが傾斜角4~5度で設定されているので、これでは相当体力がないと上り切れない。各会場内の車いす席は規定通りに確保されていたが、柵の高さが1メートル前後でちょうど目線とかぶってしまい、非常に見にくかったとの指摘もあった。いずれも車いす使用者の立場で考えれば避けられた問題だけに、東京大会においても参考になるだろう。

 一方、今回のリオ・パラリンピックに対する選手たちの評価は5点満点の3・5点でおおむね良好だった。一方で個別にはネガティブな指摘も多く、たとえば選手村のエレベーターは数は多いものの、「狭くてボタンがわかりづらかった」という。また、ゴールボールの選手からは「観客に観戦マナーの案内がなく、競技の進行に支障をきたした」との指摘があった。視覚障がい者がプレーするゴールボールはボールの中の鈴の音に反応して選手が動くため、プレー中は館内が静寂でなければならない。ところがリオでは観客の歓声や館外からの騒音がひどく、他国の選手たちにも不評だった。おそらく観客に悪気はなく一生懸命応援しただけなのだろうが、それで選手に迷惑をかけたのでは本末転倒だ。選手村と各会場を結ぶシャトルバスに関しても「車いすが進行方向に対して横向きで危険だった」という指摘があり、「なるほど」と考えさせられた。

 発表の席で垣内氏は「ハードは変えられなくてもハートは変えられる」と強調した。障がい者に合わせて駅や会場にスロープを設けたり、専用のトイレを増設するには時間も金もかかる。だが、周囲の人々の心はすぐにでも変えられるし、一円もかからない。真の共生社会実現に向け、我々にできること、やらなければならないことはまだまだたくさんありそうだ。(編集委員)

 ◆藤山 健二(ふじやま・けんじ)1960年、埼玉県生まれ。早大卒。スポーツ記者歴34年。五輪取材は夏冬合わせて7度、世界陸上やゴルフのマスターズ、全英オープンなど、ほとんどの競技を網羅。ミステリー大好きで、趣味が高じて「富士山の身代金」(95年刊)など自分で執筆も。

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