消えたデイパック

[ 2016年10月7日 09:00 ]

 【我満晴朗のこう見えても新人類】今更ながらと言われそうだが、リオデジャネイロ五輪では競技以外に気になったニュースがいくつかある。主にセキュリティー関連で。

 開幕直前の8月2日、競泳会場の観客席で持ち主不明の黒いバッグが見つかり、練習中の選手や報道陣が一斉退去。その後、軍の調べで中身が電気工事道具と判明し、事なきを得たという。作業員の誰かがうっかり忘れたのだろう。全く人騒がせだよな…と人ごとのように鼻で笑っていたら、突然20年前のアトランタ五輪がフラッシュバックしてクラクラした。

 ジョージア工科大のオリンピックプールで行われた飛び込み競技を取材した日のこと。試合が終了し、プレスボックスから記者会見場へと移動する際、面倒なので取材道具が一式入ったデイパックを席に残しておいた。身分証や貴重品は常に身につけていたし、カバンの中身は紙の資料と(パソコンではなく)ワープロ程度。一般席とは隔離されているから盗難の心配もない。

 別室でのインタビューを終えて席に戻ると、そのデイパックがこつぜんと姿を消してしまった。慌てて探し回るが、どこにもない。焦りまくって係員に尋ねたら「セキュリティーが持って行った」という。

 不案内なボランティアにたらい回しされたあげく、ものものしい警備の保安庫へ。「あれは君のカバンなのか?記者席にぽつんと残されていたから不審物じゃないかと皆、怖がっていたんだぞ。自分のカバンはいつも一緒に持ち歩いてくれないか」。怖い顔のスタッフにこんこんと(英語で)説教された覚えがある。

 この一部始終を目撃していたのがエッセイストの阿川佐和子さん。当時、スポニチに五輪観戦記を連載していた。当然ながら筆者のアタフタぶりはしっかり原稿のネタになっていた。

 それにしても、だ。そもそも五輪では会場に入る度に荷物検査が入念に行われる。金属探知ゲートを通るのは当たり前。係員の目の前でカメラ(フィルム時代でした)のシャッターを切り、ワープロの起動スイッチを押していちいち安全を確認する。そうやって持ち込んだ商売道具なのに、ちょっとした粗相で危険物と疑われてしまう。

 どこまで厳重なら気が済むのかと当時はいぶかったものだが、逆に言えば二重、三重のチェックを経ているからこそテロなどの心配をせず、選手は競技に、メディアは取材に専念できるわけだ。もちろん観衆も守られる。面倒だが、安全のためには仕方がない。

 今回のリオではバスケットボール会場で不審物が見つかり、爆発処理という力業で解決したのと報道もあった。なんともはや。世が世なら筆者のカバンも木っ端みじんになっていた可能性がある。

 さて2020東京五輪。平和ぼけ?のわが国とはいえ、セキュリティーに関してはリオ基準以上が求められるだろう。くれぐれも席に私物を置き去らないようにしたい。

 おっと。その前にバレーボールなど3競技の会場を早く確定してほしい。本番まで4年を切ったのに依然としてゴタゴタしているなんて、セキュリティー以前の問題だよね。(専門委員)

 ◆我満 晴朗(がまん・はるお)1962年、東京都生まれ。ジョン・ボンジョビと同い年。64年東京五輪は全く記憶にない。スポニチでは運動部などで夏冬の五輪競技を中心に広く浅く取材し、現在は文化社会部でレジャー面などを担当。たまに将棋の王将戦にも出没し「何の専門ですか?」と尋ねられて答えに窮する。愛車はジオス・コンパクトプロとピナレロ・クアトロ。

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2016年10月7日のニュース