フィギュア女子ジュニアの時代 平昌、北京へ続く地図

[ 2016年10月5日 10:30 ]

肩から指先の自然な流れ。この世代では無敵の表現力を見せる本田真凛選手
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 【長久保豊の撮ってもいい?話】薄手の紙を横にしてスケートリンクに見立てた角の丸い長方形を描く。手前中央をジャッジ席として演技の始まり地点をS、フィニッシュ地点をF、演技項目ごとの場所、顔の向きを記していく。お目当ての選手ごと、SP、フリー各1枚ずつの「地図」を作るのだ。

 昨シーズンの羽生結弦、宇野昌磨選手を例に取る。羽生選手のハイドロブレーディングはリンク中央から第1コーナー(右下)に沿って時計回りの円の軌跡で表す。宇野選手のクリムキンイーグルはリンク中央から右横に引いた直線で表し、体を起こし顔が見える地点と方向に◯と→印をつける。

 こうして出来上がった2枚の地図を重ねると2人の演技のクライマックスを撮影するのに最適な場所は第1コーナーということになる。

 一般にはあまり知られていないが、カメラ席は大会当日の抽選で決定される(抽選1番から好きな場所を取っていく)。必ずしも希望する位置で撮影できるものではない。ましてや選手ごとに撮影位置を変えることは不可能。それゆえ詳細な地図を描き、引き出しをたくさん作り、最大公約数を求めやすくすることがシーズン直前の仕事になる。最近は動画サイトに情報があふれているからこうした作業も楽になった。

 羽生選手や宇野選手の地図作りにはやっと取り掛かったところだが(羽生選手のハイドロの位置が変わったので少しパニック)、今季は女子ジュニア勢の地図が増えそうだ。

 トリプルアクセルの花丸を手始めに、残り7本の3回転ジャンプを示す◯で地図が埋め尽くされそうな14歳の紀平梨花選手。16歳の坂本花織選手の地図には飛距離のあるダブルアクセルからの連続ジャンプに◎を記そう。

 ロシアのアリーナ・ザギトワ選手(日本に来れば「奇跡の14歳」とかいうキャッチフレーズでアイドルを始められそうな美形)は演技後半にジャンプ全ブッコミ。地図作りに悩むところ。

 12月のジュニアGPファイナルには上記3選手と前年王者のツルスカヤ選手が進出決定。15歳の本田真凜選手は今週のドイツ大会でのロシア2選手の結果次第ということ。

 指先、というより背中から指先へ向かう流れが柔らかい彼女に詳細な地図はいらない。どこからでも絵になっちゃう不思議な選手。意地悪く※印でも記すとすれば2戦連続で抜けてしまったジャンプ地点だろうか。なんとかしてファイナルに滑り込んでほしいというのが正直な思い。

 彼女たちの地図は来春までにいろんな書き込みをされ、初秋には真っさらに更新される。それが平昌(紀平選手は年齢制限で出場できません)、北京へと続く地図になることを祈っている。(編集委員)

 ◆長久保 豊(ながくぼ・ゆたか)1962年生まれの54歳。スケートは子供のころ、後楽園の黄色いビルで1回、学生時代に帯広ヤングセンターで滑ったのみ。

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