病気やケガで大きく番付下げた力士たち 不屈の努力で関取カムバック

[ 2016年10月2日 11:05 ]

竜電(左)と山口

 お相撲さんは大変な職業だ。激しい取組の末に大ケガを負っても、何の保証もされない。以前は「公傷制度」なるものがあり、全治2カ月以上ならケガをした翌場所は1場所だけ同じ地位にとどまることができた。それも、03年九州場所限りで廃止となった。1年以上も休まなければならない大ケガを負えば、番付は大きく下がる。幕内力士でも一気に序ノ口まで落ちることもある。序ノ口から幕内まで戻るには、休んだ年月以上の時間が必要となる。

 9月28日の番付編成会議で、5人の十両昇進力士が発表された。再十両は山口(宮城野部屋)と竜電(高田川部屋)。この2力士はともに、病気やケガで大きく番付を下げながら、懸命の努力で関取カムバックを果たした。

 東2枚目で幕下優勝を飾った山口は日大出身で、幕下付け出しデビューから大喜鵬のしこ名で13年夏場所には幕内まで上がった。だが、度重なる故障に加え、体重は急激に20キロ近く減少し、三段目まで降下。手の震えが止まらず、周りからは「遊びすぎ」「アル中」と言われたが、15年春場所後の検査で、甲状腺の病気であるバセドー病と判明した。

 そこから地道な努力が始まった。薬は今でも1日3回服用している。「今までコツコツとやる人を見て“自分ではできないな”と思っていた。でも、コツコツやらないと、不安になるようになった」。トントン拍子で関取になったあの頃とは心技体の「心」が違う。「いろいろ経験できた」という27歳の再十両は、これまで以上にお客さんを大喜びさせる相撲を取ってくれそうな気がしてならない。

 西2枚目で4勝3敗の竜電は、1場所だけ十両を務めた12年九州場所以来の関取復帰だ。新十両の場所では右股関節を痛めて途中休場。幕下に陥落してからはケガ続きで、14年初場所は序ノ口まで落ちた。番付外にはなりたくないという一心で、7番相撲だけ出るというのを4場所繰り返し、完全復活したのは15年秋場所。そこから、序ノ口、序二段、三段目で優勝を飾って昨年秋場所に幕下復帰。今年秋場所は3連勝3連敗から勝ち越し、4年ぶりの十両復帰を果たした。

 「心が折れそうになった時期はあった。でも親方(高田川親方=元関脇・安芸乃島)から一からやり直そうと言われ、それが支えになった」。かつて平成生まれ初の関取が期待されたが、それはかなわなかった。弟弟子の輝には新入幕で先を越された。だが、竜電は25歳と若い。飛躍のチャンスは残されている。

 秋場所では他に、元幕内の舛ノ山が脚の故障などから復帰して序ノ口優勝を果たし、十両ではアキレス腱断裂から再起した関取最年長37歳の安美錦が勝ち越した。苦労した力士の努力がこぞって報われた秋。こちらまでジーンと来る場所だった。 (佐藤 博之)

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2016年10月2日のニュース