なぜ一本釣り?違和感を覚える全柔連新体制の選出過程

[ 2016年9月26日 13:00 ]

ポーズをとる柔道の(左から)男子代表の井上康生監督、金野潤強化委員長、女子代表の増地克之監督

 どうにも違和感がぬぐえない。

 全日本柔道連盟は14日、10月1日に発足させる新しい選手強化委員会の中核メンバーを発表した。もう20年近く柔道の現場に携わっているが、顔ぶれは「異色中の異色」と言っていい。トップに立つ強化委員長と副委員長3人のうち、五輪経験者は男子強化部長を兼ねる中村兼三氏だけ。リオデジャネイロ五輪までの強化体制で、全日本の指導現場にいたのも女子強化部長兼任の渡辺涼子氏のみ。強化委員長に就任した金野潤氏、副委員長の山田利彦氏はともに強化委員だったが、全日本の直接的指導者であった経験はない。

 ただし、その人選については個人的に異議はない。というのも、各氏の指導実績は十分評価に値するし、実際に会話していてもその知識の豊富さや見識の高さは伝わってくる。選手時代の実績にとらわれることなく、あくまで指導者としての資質を評価した人事は、好感すら持っている。

 違和感があるのはその選出過程だ。

 過去は強化委員会内で議論を重ね、次の4年間を託す人材を選んできた。ところが、今回は人事に関する強化委員会は開催されないまま。強化委員長を兼務してきた山下泰裕副会長が金野氏を“一本釣り”する形で後継者を決定した。その他のメンバーに関しても近石康宏専務理事、山下副会長ら限られた人間で検討し、打診した形跡しかない。もちろん最終的に承認が必要な理事会では人選に対する異議が続出し、紛糾。最終的に満場一致ではなかったことを、近石専務理事も認めている。

 ここに違和感の根源がある。

 20年東京の柔道は、今まで以上にメダルラッシュを期待される。才気あふれるが、やや経験不足といえる若き指導陣が、試行錯誤しながら方針を模索している時間があるとすれば、そこに「それみたことか」という感情を発露させる他の指導者が出てくるような気がしてならない。いわばトップダウン人事の危機感。手続き論は好きではないが、どこかで手順を踏む必要があったのではないだろうか。

 リオの成績を「日本柔道は完全に復活した」と評価したのは山下氏だった。その路線をどう踏襲し改善していくかは、リオまでの強化委員会に責任があったと思う。組織が大きく舵を切ろうとするときには、多少の歪みが出てくるものだが、13年の新体制発足時、「合議」に舵を切ったのは柔道界だ。さて、今回は?目に見えない歪みが大きくならないことを、今は祈りたい。(首藤 昌史)

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