肝移植を受けた女子バレーボール選手の再出発 でもそれは理想の姿か?

[ 2016年9月18日 08:45 ]

サバナー・レニー(AP)

 【高柳昌弥のスポーツ・イン・USA】カリフォルニア大の女子バレーボール・チームに所属するサバナー・レニー(19)は今年の5月17日に肝移植の手術を受けた。メスを入れる部分がそのロゴマークに似ているために「メルセデス・ベンツ切開」とも言われる手術。病名は「門脈圧こう進症を伴う先天性肝線維症」で、肝硬変に症状が悪化していくリスクを背負っていた。米国では日本のような生体肝移植ではなく脳死臓器移植が基本。レニーのドナーは20歳代の女性だったと言う。そして彼女は新たな“生命”を授かった。

 それから3カ月。レニーは今、真のバレーボール選手に戻るために地道なウエートトレーニングを続けている。移植を受けた以上、免疫抑制剤の投与が続くために、本来ならば体力を酷使してしまうハードなスポーツは避けたほうがいいはずだが、彼女は「ひとつのトレーニング・メニューごとにイライラするほど“ゆっくりやるのよ”と自分に言い聞かせている」と、ずっと歩んできた道に戻ろうとしている。

 米プロゴルフ界では心臓の移植手術を2度受けたエリック・コンプトン(36)がまだ現役で頑張っている。かつてNBAのトップ選手だったアロンゾ・モーニング氏(46=元ヒート)とショーン・エリオット氏(48=元スパーズ)はともに腎臓の移植手術を受けてコートに復帰した経歴を持っている。医療費は高額だが、その一方で移植手術を受けやすい環境が彼らのスポーツ人生をアシストしているのは事実だ。

 移植大国・米国での「スポーツ選手と移植手術に関するニュース」は数年に一度のペースで入ってくる。日本との違いを痛感する瞬間でもある。ただし私は復帰した選手に対して「頑張れよ」という気持ちは抱かないことにしている。

 もちろんその努力には拍手を送る。ただしドナーが存在する以上、もたらされた臓器に最大限の敬意を払わなくてはいけないと思うからだ。免疫抑制剤の進歩によって移植手術を受けた患者の生存率は年々伸びていると言う。しかしこの状況下において、スポーツは本人の心を支えても肉体には助けにはならない。

 レニーの医療環境は恵まれていた。生きているだけで素晴らしいと思う。苦境に立ち向かってわずか3カ月で復帰しようとしている精神力も尊敬に値する。だからこそ「ゆっくりやろう」は彼女にとってお守り代わりの大事なフレーズだ。

 さて、もしあなたがレニーと同じ立場だったらどうするだろうか?そこまで全身全霊を捧げるものが、身近にあるだろうか?日本国内の医療制度を含めて、少し考えてみてほしいと思う。(専門委員)

 ◆高柳 昌弥(たかやなぎ・まさや)1958年、佐賀県嬉野町生まれ。上智大卒。ゴルフ、プロ野球、五輪、NFL、NBAなどを担当。スーパーボウルや、マイケル・ジョーダン全盛時のNBAファイナルなどを取材。50歳以上のシニア・バスケの全国大会に6年連続で出場。

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