ちりぬべき時知りてこそ…吉田沙保里の苦悩

[ 2016年9月5日 08:20 ]

8月24日のメダリスト記者会見で銀メダルに触れる吉田沙保里

 【鈴木誠治の我田引用】女子レスリングの吉田沙保里選手(33)が、現役続行への前向きな発言をした。

 「やっぱり、強い人は負けると悔しさも何倍も大きいのかなぁ」

 弱気なバドミントンボーイのミキオが言った。

 リオ五輪で銀メダルを獲得した直後は、栄和人強化委員長が「勝って終わるつもりだった」と明かすなど、五輪4連覇を引退の花道にするつもりだったようだ。

 「金メダルだったら、すっきり引退できただろうにね」

 弱気だけど優しいという、分かりやすい性格のミキオがため息をつくと、すかさず、女勝負師のスゥちゃんが厳しく言った。

 「勝ち逃げはだめよ」

 いつも、スゥちゃんにやり込められているミキオが、ビクッとする。

 「あんた、こないだ言ってたじゃない。バドミントンの、何だっけ?銀メダルの人…」

 「あぁ、リー・チョンウェイね」

 リー選手(マレーシア)は、リオ五輪バドミントン男子シングルスで、2大会連続の銀メダルだった。ロンドン五輪決勝で敗れた林丹選手(中国)を、リオ五輪準決勝で激闘の末に破ったが、決勝は若い中国選手に敗れた。

 「そのリーさんね、きっと現役続けるわ。でもね、銀メダルだったからじゃない。林丹が引退するまで続けるわよ」

 リー選手と林丹選手は、宿命のライバルとして知られる。ミキオは先日、2人の試合は「別次元のバドミントン」と説明したばかりだった。

 「金とか銀とか、五輪とか準決勝とか、2人にとってはどうでもいいことだと思うの。認め合った相手と、最高の試合ができる。それだけだと思うのよね」

 ちりぬべき時知りてこそ世の中の 花も花なれ人も人なれ

 細川ガラシャの辞世とされる歌を、ミキオは何となく口にした。戦国武将、細川忠興の妻・ガラシャは、関ケ原の際に、悲劇の死を遂げた。

 「ライバルが引退する時が、自分も引退する時…かぁ。勝ったから、負けたからじゃないのかもね、あの2人は」

 「そうよ。吉田選手が揺れるのは、ライバルがいないことも影響しているかもしれないわ」

 無人の野を行き、勝ち続けることだけを目指さざるを得なかった吉田選手の苦しさを思い、スゥちゃんは表情を暗くした。

 「それにしても、あんた、なんでそんな歌、知ってんのよ」

 ミキオはまた、ビクッとした。

 「いや、真田丸(NHK大河ドラマ)で、橋本マナミが細川ガラシャをやっててさ…」

 癒し系の愛人キャラ、橋本マナミは、弱気なミキオのお気に入りだ。

 「あほか!だから、あんたは負けてばっかなのよ!」

 スゥちゃんに厳しく言われて悲しげな表情を見せたミキオは、バドミントン仲間から「本番に弱い男」と呼ばれている。

 ◆鈴木 誠治(すずき・せいじ)1966年、静岡県浜松市生まれ。立大卒。ボクシング、ラグビー、サッカー、五輪を担当。軟式野球をしていたが、ボクシングおたくとしてスポニチに入社し、現在はバドミントンに熱中。

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