荒井 失格騒動も…陸連“上訴”で堂々3位!「胸を張りたい」

[ 2016年8月21日 05:30 ]

<男子50キロ競歩>「メダルにキスを」のリクエストに照れ笑いを浮かべる荒井

リオデジャネイロ五輪陸上・男子50キロ競歩

(8月19日)
 異例のドタバタ劇の末に、男子50キロ競歩の荒井広宙(ひろおき、28=自衛隊)が競歩史上初のメダルとなる「銅」を獲得した。3時間41分24秒の3位でゴール後、残り2キロ付近で接触したカナダ選手サイドが審判団に抗議。一度は失格となったが、日本陸連が国際陸連に行った「上訴」により失格が取り消され、今大会の日本陸上のメダル第1号となった。

 競歩界初のメダル獲得までには一波乱も二波乱もあった。3位でゴールした荒井が予期せぬ失格騒動に巻き込まれた。問題の場面は残り2キロ付近で起きた。カナダのダンフィーに抜かれ、内側から抜き返そうとした際、両者が接触。カナダ陸連が審判団に抗議して進路妨害と判定され、一度は失格で電光掲示板3位の欄から名前が消えた。

 「何でかなあと納得できなかった。ぶつかることは日常茶飯事なのに」。

 日本陸連も即座に動いた。文書と問題の場面の映像を国際陸連に提出。「上訴」の手続きを取った。映像は、国内の日本陸連スタッフがインターネット経由で送ったもの。A4用紙半分ほどの行数の英語で「相手はその後もフラフラしていた。接触と関係ない」(尾県専務理事)と主張した。

 荒井は長野県の実家に電話して父・康行さん(67)に状況を報告。「父ちゃん、心配しないでいいよ」と気丈に振る舞ったが、心中は穏やかではなかったに違いない。国際陸連から「銅確定」を告げるメールが届いたのは午後3時14分。歩き終えてから3時間33分が過ぎていた。日本チームの麻場一徳監督は「覆って当然の結果」と陸上のメダル1号を喜んだ。

 福井工大では部の指導方針が合わず2年で退部。卒業後は競技に専念しながら給料をもらえる環境を手に入れられず、ブドウ農家を営む康行さんからの仕送りだけが頼りだった。決して順風満帆ではなかった競技人生は、この日の動乱と重なる。昨年11月には母・繁美さん(享年63)を亡くした。ただし、「近所の人にいつもニコニコあいさつしていた」(康行さん)という根っからの明るさで困難に向き合ってきた。予期せぬ失格宣告をされた時も同じだった。

 「3番でゴールをしたのは間違いないので、たとえメダルはなくても次につながるレースをしたと思っていた。それが、もらえることになった。堂々と胸を張りたい」。

 競歩を始めた長野・中野実(現中野立志館)2年の夏。「競歩の講習会に行きたいから」と合宿に参加するために、1万円をねだったことがあった。この時宣言したのが「父ちゃん、荒井家を有名にするから」だった。自信も根拠もない言葉が、11年の時を越えてリオで実現した。

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