“勇気ある休養”も必要…19年W杯へ出場試合数制限の議論を

[ 2016年6月16日 10:15 ]

練習で、コーチの指示を聞く日本代表フィフティーン

 今年は4年に一度のW杯翌年のシーズンとなっているラグビーは、6月に入り各国代表がテストマッチを行うウインドーマンスに入った。今年初めて主力選手が招集された日本代表も、11日のカナダ戦(バンクーバー)に26―22で何とか勝利。18日にはW杯で唯一黒星を喫した因縁の相手、スコットランドを愛知・豊田スタジアムで迎え撃つ。

 カナダ遠征にはフッカーの堀江翔太主将(パナソニック)やSRレッズで大活躍中のフランカー、ツイ・ヘンドリック(サントリー)ら10人がメンバーから外れていた。費用対効果を考慮しツアーで人数を絞るのは通例だが、選手個々の力量を見れば、堀江らがカナダ遠征から外れたのは、蓄積疲労を考慮されてのことであるのは明らかだ。

 遠征前に、これに異を唱えたのが日本ラグビー界のご意見番でもあるSH田中史朗(パナソニック)だった。いわく、優先させるべきは代表活動であり、休養が必要なら代表活動に支障がないように休むべき、と。実に真っ当な意見で、本来ならそうするべきだ。ただ、ケースバイケースで考えれば、少なくとも堀江に関しては、休養を与えられてしかるべきだった。

 昨年2月に首の手術を受けた堀江が実戦復帰したのは、同7月18日のカナダ戦(米サンノゼ)だった。以後、W杯本番までに6試合に先発。W杯も全4試合に先発した。帰国後、今度はトップリーグのパナソニックの一員として、プレーオフを含めて全10試合に出場し、今年1月31日の日本選手権(秩父宮)でも母校の帝京大と覇を競った。そしてサンウルブズでも主将を務め、5月までの全12試合に出場、うち10試合が先発。この1年間で公式戦だけでも計34試合に出場した計算だ。

 5月末に発足した日本ラグビーフットボール選手会の立ち上げに大きく関与した日本代表のSO小野晃征(サントリー)によれば、世界一のニュージーランドでは、トップクラスの選手の適性な年間出場試合数は「30試合」だという。この例に当てはめても、堀江の出場過多は明らかだ。しかも手術明けに始まり、5月の試合では右耳の鼓膜に穴が空くアクシデントに見舞われている。

 これは堀江一個人の問題ではなく、日本ラグビー界全体で解決していかなければならない問題だ。例えば文句なしにベストメンバーが来日したスコットランドに日本が勝てば、W杯後から続くラグビー人気がさらに加速するかも知れない。ならばその試合に、選手を良好なコンディションで臨ませるのが重要だ。3歳からニュージーランドで育った小野によれば、12年秋に同国代表のリッチー・マコウ主将(当時)が半年間の休養を表明した際、全国民を巻き込んだ議論は、最後に「ニュージーランドにとって、何がベストなのか。マコウが無理してプレーしてケガをしたり、海外のクラブに移籍してしまったら、その方が損失になる。だから、みんなが納得した」と言う。マコウの半年間の休養は、結果として史上初のW杯連覇へとつながった。

 課題は多い。報酬を支払う側の所属チームは、トップリーグの出場試合数を制限することに猛反発するだろう。スーパーラグビーでもしかり。それでも選手がより良いパフォーマンスを発揮するために、勇気ある休養が必要であることは明らかだ。日本協会の男子15人制強化責任者である薫田真広ディレクターも「選手をいかに休ませるか、いかにコンディショニングを整えるか、しっかりマネジメントしていきたい」と話しているが、19年W杯に向けていち早く最大公約数と言えるルールを整備してほしい。 (阿部 令)

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