あれから4年…体操界のキング 内村が暴いた魔物の正体

[ 2016年5月12日 09:00 ]

2012年7月のロンドン五輪体操男子団体総合予選の鉄棒で落下し、手を合わせて顔をしかめる内村航平

 過去、何人の金メダル候補が目の前の現実を受け入れられず、ぼう然と立ち尽くし、失意のまま会場を去っただろう。自らの実力を前評判通り発揮さえすれば、世界の頂に手が届いたはずだった。

 五輪に棲(す)む魔物は、息を潜めチャンスをうかがう。時に予想外のアクシデントやミスを引き起こし、時に想像以上のパワーをライバルに与える。性格は悪く、順当勝ちは好まない。アスリートが「いつもと違う」と感じた時にはもう、術中にはまっている。

 12年ロンドン五輪で、体操男子の内村航平は団体総合予選の鉄棒とあん馬で落下。銀メダルだった決勝でも再びあん馬で落下し、金メダルを獲得した個人総合も最後の床運動で着地が乱れた。「やっぱり五輪には魔物がいる」。実体を伴わない難敵は、見えざる手で戴冠を阻もうとしていた。

 あれから4年。体操界のキングは、魔物の正体を暴いた。

 「魔物は自分自身で作り出しているもの。ロンドンの時は体操人生で一番いい演技とか、いい結果を求めていた。そこが普段通りじゃなかった」

 19歳で五輪初出場だった08年北京は魔物に遭遇することなく、若さと勢いで団体&個人総合で銀メダル。「何も分からないまま、のびのびと演技できた」。ロンドンは「本当の五輪の怖さを知った」と言う。そして、リオデジャネイロ。過度の高ぶりはなく、自然体で3度目の夢舞台を迎える。

 「リオは何も考えないでやる。経験は相当、してきているんで。完成度が高ければ、体操人生最高の演技ができる」

 初めて個人総合で世界を制したのが09年。以降、ロンドン五輪を含め王座を誰にも明け渡さなかった。最も強い男が、最も濃密な時間を過ごしてきたと言っていい。今の内村には、五輪の魔物ですら近づけない。(杉本 亮輔)

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