シャラポワ薬物問題の核心 競技力向上を薬に頼る風潮こそが…

[ 2016年4月12日 11:00 ]

3月、記者会見でドーピング検査で陽性になったことを説明するマリア・シャラポワ(AP)

 女子テニスのマリア・シャラポワ(28=ロシア)が今年から禁止薬物に指定されていたメルドニウムに陽性反応を示して会見を行ったのは3月。「糖尿病の家系なので医師に処方してもらった」というのが服用していた理由だった。

 以後、ラトビアのグリンデクス社が「ミルドロネード」という名前で製造しているこの薬に陽性反応を示したアスリートが競泳やバレーボールなど各競技から続出。その数はすでに30人を超え、そのほとんどがロシアの選手だった。

 250ミリグラムの40錠で4500円ほど。なにしろその他の効能として「スタミナ向上と回復力に優れている」と堂々と紹介されているから、購入しやすい価格も手伝って販売が認められている。だからスポーツ選手が、その後に直面する大きな問題など考えもせず手を出していたのだろう。

 確かに糖尿病は血管系の病気との合併症につながるからシャラポワの語った理由は本当なのかもしれない。では、その他の選手も全員が同じ理由だったのか?と思うと、それはとても信じることはできない。だからシャラポワの説明にもかなり無理がある。世界反ドーピング機関(WADA)が定める禁止薬物になかったから安易に使ってしまった、と考えるのが妥当だろう。そして競技力の向上を薬に頼ろうとしていた風潮がまん延していたことがこの問題の核心でもある。

 すでにロシアの陸上界は組織的ドーピングでリオデジャネイロ五輪への出場が危ぶまれている。違反に関与して処分を受けたコーチが依然として指導を続けているという疑惑もかけられている。クリーンになったというイメージをなんとかアピールしたい時に表面化したのがこのメルドニウム問題。おそらく世界の多くの人が「ロシアは禁止されていなければ、どんなスポーツ選手でも薬に頼るんだ」と感じたことだろう。

 ただし日本でも今、各地で行われるマラソン大会に漢方の芍薬甘草湯を服用する人が多い。足がつるのを防ぐ即効性のある薬として注目されている。しかし本来は「けいれんとその痛みをやわらげる」ことが目的の薬。最も多かった服用の目的は「夜間のこむらがえり防止」ではなかったかと思う。

 「興奮作用のあるエフェドリンを含む麻黄などが入っていないからドーピングではない」と多くの人が主張するが、この薬の副作用には体のむくみ、動悸、低カリウム血症、さらには間質性肺炎などが記されている。走るからといって長期に服用していると、決して「体にいい」とは言えないのだ。なにより、薬に頼るという考え方は狭心症でもないのに、疲れを回復させようとメルドニウムに手を染めたロシアの選手と同じだ。

 実は私もフルマラソンでたびたび芍薬甘草湯を服用した1人。確かに効果はあった。しかし禁止薬物でなければ何を服用してもいいのか?と自問自答している。多分そう考えてみることがスポーツ界の浄化への第一歩。そうですよね、シャラポワさん? (スポーツ部・高柳 昌弥)

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2016年4月12日のニュース