福士の無謀行動 “悪しき前例”が遠因…もっと優勝者評価を

[ 2016年2月10日 08:30 ]

大阪国際女子マラソンで優勝した福士加代子

 五輪のたびに繰り返されるマラソンの代表選考問題。大阪国際女子マラソンで福士加代子(ワコール)が快走したこともあり、今回は珍しく何事もなく終わるかと思ったら、その福士がもう一度3月の名古屋ウィメンズを走ると言い出した。「日本陸連から代表決定と言ってもらえなかった」というのがその理由だが、わずか1カ月ちょっとで再び42・195キロを走るのは無謀以外の何ものでもない。よしんば名古屋で好結果を出したとしても疲労の蓄積からリオで失敗するであろうことは容易に想像がつく。

 もちろん、そんなことは指導者の永山監督は百も承知のはずだが、それでももう一度走るというのは、陸連に対して強い不信感があるからだろう。実際、昨年の世界選手権の代表選考で、陸連は横浜国際で優勝した田中智美(第一生命)ではなく、タイム的には18秒速いだけで大阪国際3位の重友梨佐(天満屋)の方を選出している。この悪しき前例が、今回の福士の無謀な行動の遠因となっているのは間違いない。

 毎回代表選考がもめる根本的な理由は、代表の人数と選考レースの数が合わないことにある。選考レースが国内の3レースだけであればそれぞれのレースから1人ずつ選べば何の問題もない。ところが五輪の前年には必ず世界選手権がある。ダメージが大きい真夏のマラソンを積極的に走りたがる選手はおらず、トップ選手を出場させるためにはそれ相応の代価を必要とした。それが「五輪切符」だった。その結果、代表は3人なのに選考レースは4つといういびつな形が出来上がった。

 陸連は毎回「各レースの内容を総合的に勘案し、五輪での活躍が期待できる選手を選考した」と説明するが、気温や風、高低差などの自然条件に加え、ペースメーカーの力量によってもタイムが大きく異なるマラソンを横並びで評価するのはどう考えても無理がある。どんなに科学データを駆使しても最後は「総合的」に判断せざるを得ないからだ。だからこそ言いたい。なぜもっと各レースの「優勝者」を評価しないのかと。

 代表選考レースと銘打っている以上、もっとも重視すべきは勝敗である。「優勝」と最近はやりの「日本人最上位」とでは重みが違う。タイムがどうであれ、選考レースに優勝して選ばれないというのは筋が通らない。陸連は昨年の世界選手権では重友ではなく田中を選ぶべきだったし、今回も2時間22分30秒という設定タイムとともに「優勝」を選考条件に加えるべきだった。そうすれば福士は内定条件を満たし、今回のような無謀な行動を取る必要はなかったはずだ。

 これは私一人の意見ではなく、多くの指導者や選手たちの声を聞いた上での結論だ。次回20年の東京五輪ではぜひ選考基準に「優勝者を最優先で選考する」という一項目を付け加えてほしい。代表の人数と選考レース数が異なる以上、混乱を避けるにはそれが唯一の現実的な解決策だと思うのだが…。 (藤山 健二)

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2016年2月10日のニュース