羽生が“羽生超え”フリー限りなく満点に近い出来栄え

[ 2015年12月14日 05:30 ]

観客の声援に応える羽生

フィギュアスケートGPファイナル最終日

(12月12日 スペイン・バルセロナ)
 14年ソチ五輪金メダリスト・羽生結弦(ゆづる、21=ANA)が“神の領域”のさらに先へ進んだ。男子フリーで219・48点、合計は330・43点で、ともに自身がNHK杯でマークした世界歴代最高得点(フリー216・07点、合計322・40点)を更新。2位のハビエル・フェルナンデス(24=スペイン)にファイナル史上最大の37・48点差をつけ、男子初の3連覇を飾った。宇野昌磨(17=中京大中京高)は276・79点で3位、村上大介(24=陽進堂)は235・49点で6位だった。

 羽生が泣いていた。本人ですら、理由が分からずに。大歓声に包まれ、NHK杯の世界最高得点を上回る330・43点を知ったキス&クライ。隣で喜ぶオーサー・コーチに向かってつぶやいた。「Why am I crying?(なぜ僕は泣いているんだろう?)」。表彰式を終えて少し落ち着きを取り戻すと、「安ど感」という涙の理由にたどり着いた。

 「NHK杯は“やった~”って素直に喜べた。今回は“良かった”って感じで、ホッとした」

 内的と外的、2つの重圧に押しつぶされる寸前だった。NHK杯から2週間。「世界記録に追われて演技した感じ。自分で自分を追い込んでいた」。自身の前に滑った地元スペインのフェルナンデスが好演技を披露。イヤホンで耳をふさいでいても、観衆の興奮が伝わってくる。「ハビエル(フェルナンデス)が200点超えたし、“やべえな”って」。熱狂が冷めない中、フリー「陰陽師」がスタート。抱いていた不安は、時の経過とともに消えた。

 「フリーをやっている最中に吹っ切れた。今できることをしっかりやればいいと思えた。最後まで気を抜かずにできた」

 3度の4回転をはじめ、ジャンプを全て完璧に成功。ステップは10日のSPに続いて最高難度のレベル4に届かずレベル3だったが、技術点の出来栄え評価で25・73点も加点。演技点も9点台後半がズラリ。りりしい表情で真っすぐ前を見据えて演技を締めくくると、視線の先には新たな世界が広がっていた。

 「評価されたことはうれしいけど、ステップが取れていない。もっと練習していかないと」

 中国杯での激突事故、腹部手術と逆境の連続だった昨季、羽生は実感を込めて言った。「壁の先には壁しかない」。今季のNHK杯での世界最高得点もまた、一つの壁になるはずだったが、すぐに乗り越えた。もはやライバルは自分だけ。周囲にはそう映っても、「そんなことない、そんなことない。ハビエルの演技にビビりましたもん」と否定する。憧れの絶対王者・プルシェンコを超えるファイナル3連覇にも、達成感はない。

 「自分はまだ“絶対王者”の響きに合っているスケーターじゃないと思っている。常に1位であり続けたいし、納得できるパフォーマンスがしたい」

 現在のプログラム(フリー)でMAXとなる225・79点の約97・2%を獲得しても、まだ道半ば。勝利に対する執着、完璧な演技への渇望を原動力に、羽生は進む。誰も想像できない、黄金の未来へ――。

 【羽生の記録アラカルト】
 ☆世界最高得点 SP110.95点、フリー219.48点、合計330.43点は全てNHK杯でマークした自身の記録を更新。更新幅はSPが4.62点、フリーが3.41点、合計は8.03点。
 ☆3連覇 男子では史上初。女子ではスルツカヤ(ロシア)が達成している。
 ☆2位との点差 37.48点差はファイナル史上最大。これまでは04年大会の1位・プルシェンコ(251.75点)、2位・バトル(216.65点)の35.10点差が最大だった。

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2015年12月14日のニュース