天才肌だった音羽山親方「5分だけ俺に時間をくれたら面白い番組をつくるのに」

[ 2015年7月1日 09:50 ]

6月20日に急死した元大関・貴ノ浪の音羽山親方

 6月20日。大相撲の元大関・貴ノ浪、音羽山親方があまりにも突然の死を迎えた。元々、心臓が悪かったとはいえ、ほんの1カ月前の夏場所まで審判委員として元気に仕事をされていた。両国国技館からの帰り道、一回り以上も年下の私の仕事に関して「気長に頑張ってね」と声を掛けてくださったばかりなのに…。あの柔和な表情が忘れられないし、いまだに信じられない。享年43。手を合わせに葬儀に駆けつけると、とても安らかな顔で眠られていた。

 今年30歳の私は大関・貴ノ浪の現役時代を取材したわけではない。しかし、記者の経験が浅いとか深いとかは、気さくな性格の親方にとっては関係なかった。最近は顔を合わせるたびに「俺の新しい趣味、見つけて」と宿題を出された。

 「映画とかはどうです?」と提案すると「そんなの駄目。俺は映画や読書を趣味って言うヤツが信じられない。だって、その2つは人生にとって当たり前のことでしょ」と一蹴されたのが、印象的だ。好奇心旺盛な上、何でもすぐにマスターする天才肌。「陶芸はもうやったし、他にも結構やってる人がいる。こうなったら仏像作りしかないな。今度一緒に京都のお寺を巡ろうか」と言われた時は正直驚いた。

 「7時間ぶっ通しのロシア映画を見に行ったことがあるんだ」「CSでいいから5分だけ俺に時間をくれたら面白い番組をつくるんだけどな」「相撲にはサブカルチャーの要素がある。そこをもっと生かしてお客さんを呼ぶべきだよ」。知識が豊富で、頭の回転が速い。冷静かつ多角的に物事を考えることができ、しかも面白い。こんな親方はこれからも出てこない。

 もちろん相撲の指導は天才的だった。「今場所の貴ノ岩は10番勝つよ。その稽古をさせてきたから」と言った場所で、貴ノ岩は本当に10勝を挙げた。誰にでも分け隔てなく接する明るい人柄で多くの人々に愛された。八方美人などという次元の低い言葉とは裏腹の、真の優しさを持った人物だったと思う。(鈴木 悟)

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2015年7月1日のニュース