白鵬 “道しるべのない一人旅” 行く手を阻むものは?

[ 2015年1月2日 05:30 ]

14年九州場所で32回目の幕内優勝を決め、賜杯を受け取る白鵬

 白鵬がついに優勝回数で史上1位の大鵬32回に並んだ。先場所は6日目に高安に敗れ、11場所ぶりに金星を配給。優勝争いでは久しぶりに追う立場であったが、終盤に1敗で鶴竜と並んでからは、強さはもちろん、気迫、集中力、執念はまさに鬼気迫るものであった。それは賜盃に対する思いが、他の誰よりも強かったことの証しではなかったか。

 昭和の大横綱、大鵬は30回目の優勝を飾った場所から数え、最後の賜盃となる32回目を成し遂げるまでに11場所を要した。角界初の国民栄誉賞を受賞した横綱千代の富士も30回の大台に乗せてから、自身最後の優勝となる31回目は6場所目と、やはりそれなりの場所数を費やしている。いくら大横綱でも30回も賜盃を抱くころには、土俵キャリアも最晩年に差し掛かり、体も満身創痍なのは想像に難くない。しかし、29歳の白鵬は29回目の優勝から4連覇でこの43年間、誰1人として成し得なかった「V32」をあっさりと達成してしまった。

 「早々と初場所で決めたい」と角界第一人者は“大鵬超え”に意欲満々。3月には三十路を迎え、体力もこの先は確実に下降線を辿ることから、おそらく「できるだけ早く」との思いもあるのだろう。

 最近は常々「これ以上、強くなることはない」と口にする。稽古の番数はめっきり減り、巡業の申し合いに参加することもなくなった。その代わり“土俵外”の稽古が若いころに比べ、むしろ増えたと言える。腰をしっかりと割った四股やすり足、入念なストレッチで大量の汗を掻く。横綱としての連続出場は史上1位の660回。7年半にもわたり1日も休場がないのは、こうした不断の努力の賜物であり、強さの大きな要因でもある。

 さて、最強横綱の地力が“横ばい状態”にもかかわらず、他の力士との実力差は一向に埋まらないのが現状だ。今年も優勝争いは白鵬を中心として、日馬富士、鶴竜、稀勢の里のいずれか3人の中で調子のいい者がこれに追随するという、これまでとほぼ変わらない構図で進んでいくのだろう。

 ライバル不在の情勢や、自身に休場につながるケガがないことなどから、これまでのペースに鑑みても、2、3年以内に優勝回数は40回を超えそうだ。ただ、今までと違う点は今後は道なき道を突き進み、白鵬が歩んだ後に道ができるということだ。

 「大鵬関は双葉山関の優勝12回を超えて、“一人旅”で優勝を20個も積み重ねた。(優勝回数は)超えるかもしれないが、大鵬関の相撲の生き方には辿り着いていない」。

 番付発表会見で白鵬はそう語った。5年前に63連勝したときは、その先に双葉山の不滅の69連勝があった。平成22年春場所から翌23年夏場所にかけての7連覇は、大鵬の6連覇、朝青龍の7連覇という先人たちの築いた道があった。果たして“大鵬超え”を実現させた先に見える景色は、金字塔を打ち立てた達成感か、それともさらなる高みか。

 “道しるべ”のない“一人旅”に行く手を阻むものがあるとすれば、それは自らが「ライバル」と評する「自分自身」に他ならない。これは今までに経験したことのない“難敵”であることは間違いない。大偉業を成し遂げた後も、いかにモチベーションを保ち続けることができるのか。そういう意味では、これからが今まで以上にいばらの道なのかもしれない。(相撲ジャーナリスト・荒井太郎)

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2015年1月2日のニュース