父・栄勝さん急死…沙保里号泣「お父さん、なんで!なんで!」

[ 2014年3月12日 05:30 ]

12年ロンドン五輪で金メダルを獲得しコーチを務めた父・栄勝さんを肩車する吉田

 レスリング女子の吉田沙保里(31=ALSOK)の父・栄勝(えいかつ)さんが11日、くも膜下出血のため亡くなった。61歳だった。三重県津市小舟の伊勢自動車道上り線の路肩に止まった車内でぐったりした様子で倒れているのを発見され、病院に搬送されたが帰らぬ人となった。15、16日の女子W杯(東京・小豆沢体育館)に向けた代表合宿のため、都内の味の素ナショナルトレーニングセンターに向かう途中だった。同大会に出場予定だった吉田にとっては突然の訃報で大きな心の支えを失った。

 週末に国別対抗戦のW杯を控える吉田は、栄和人監督の運転するマイクロバスで名古屋の自宅から代表合宿が行われる都内に向かっていた。その車中で父の訃報を受けた。名古屋を出て30分が過ぎた頃、吉田の兄・栄利(ひでとし)さんから栄監督の携帯電話に着信があった。栄監督は「うそだろ」とつぶやいて泣きだした。吉田は出発前、兄から「高速道路の路肩でおやじのみたいな車が見つかったらしい」という連絡を受けていた。栄監督から差し出された電話の兄が告げてきたのは最悪の知らせだった。

 レスリング日本女子代表コーチの栄勝さんも津市の自宅から同じ合宿に向かう途中だった。しかし、11日午前7時15分頃、同市小舟の伊勢自動車道上り線の路肩に止まった車内で倒れているのを別の車の運転手に発見された。病院に搬送された時には心肺停止状態。死因はくも膜下出血だった。三重県警高速隊によると、現場は津インターチェンジの南500メートルの緩やかなカーブ。車の前方に傷があり、運転中に発症した栄勝さんが中央分離帯、ガードレールに接触後、路肩に車を止めようとして停車してから意識を失ったとみられる。

 栄勝さんの情熱なくして最強女王は生まれなかった。自宅を改装して造った1試合場も入らないマットが吉田の原点。「五輪に出たら人生変わるぞ」。専大時代の73年に全日本王者になりながら五輪に出場できなかった父の夢を背負い、3歳から始めたレスリングでその教えの全てを吸収した。「常に前に出ろ」と言われ続けて身に付けた高速タックルは、親子の努力の結晶だった。

 2人の思いが最良の形で実ったのが一昨年8月のロンドン五輪だ。栄勝さんは08年末に全日本のコーチに就任。五輪前に黒星を喫し不安を抱き始めた娘を「小さい時に習ったことを思い出してやれ」と叱咤(しった)した。五輪3連覇を達成した娘はセコンドの父を肩車して感謝を示した。

 そのかけがえのない存在が突然いなくなった。静岡県の掛川駅で降りた吉田は実家に向かい、午後1時すぎに父の亡きがらと対面。「お父さん、なんで!なんで!」とすがりつき、遺体のそばに寄り添って泣き続けた。「申し訳ないですが、しばらくの間そっとしておいてください」。家族を通じての一言が、この日唯一のコメントだった。

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