稀勢の里 竜巻被害の故郷・茨城へ勇気与える連勝

[ 2012年5月8日 06:00 ]

安美錦を突き落としで破る稀勢の里(右)

大相撲夏場所2日目

(5月7日 両国国技館)
 大関・稀勢の里が小結・安美錦を突き落とし、初日から2連勝。故郷・茨城県が竜巻や突風による大きな被害を受ける状況に胸を痛める25歳が、悲願の初優勝に向けて順当なスタートを切った。初日黒星の横綱・白鵬は阿覧をつり出して連敗を免れたが、史上最多の6大関のうち新大関・鶴竜ら3人に土がつく波乱。横綱・大関の土つかずは早くも3人になった。

 出番前にライバル3人に土がついた。1番前の琴奨菊は勝ったが、土俵下で鉄仮面の表情を貫く稀勢の里の心臓は激しく鼓動した。相手は初日に白鵬を倒した安美錦。自然と気合が入りすぎ、顔がいつも以上に真っ赤になった。何としても勝ちたい、思いが体全体から発散していた。

 気負い過ぎて自分の相撲を失った。いつもの負けパターンだ。しかし、どんなに不利な体勢になっても“脅威の左”という伝家の宝刀がある。安美錦に土俵際で右を差され、追い詰められたが、とっさに左から突き落としで逆転。「ふぅー」と息を吹きながら勝ち名乗りを受けた。

 前日の取組後。支度部屋では感情を抑制することを信条とする大関の表情が変わった。テレビのニュースで流れていたのは故郷・茨城県の被害状況を映す衝撃的な映像。「これはどこ?このあたりには知り合いが1人、2人いますから」。竜巻などで約890棟が損壊し、1人が亡くなった。自身の両親が住む牛久市に大きな被害はなかったが、つくば市には知人が住む。居ても立ってもいられずに帰宅後に電話をかけた。「電話がつながらないとかではなかった。でも自衛隊が遅れているみたい…」。この日も心配そうな表情は変わらなかったが、自分に今できることは気迫みなぎる相撲を千秋楽まで取り切るだけ。被害に苦しむ故郷に勇気を与えるべく、06年初場所の栃東以来6年ぶりに日本人として賜杯を抱くことだけに集中している。

 1横綱6大関で連勝スタートは稀勢の里を含めて3人。先場所は序盤戦に3敗を喫して優勝争いすらできなかっただけに「まあ悪くないね」と納得したように話す。土俵で結果を残すことだけが、自らの仕事であることは誰よりも分かっている。

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2012年5月8日のニュース