なぜジャマイカにトップスプリンターが多い?注目されるスポーツ遺伝子

[ 2011年1月17日 08:19 ]

 陸上男子100メートルで世界記録を持つウサイン・ボルト選手を筆頭に、ジャマイカにトップスプリンターが多いのはなぜか―。遺伝子研究の観点からアスリートの能力に迫る報告が相次いでいる。日本のトップ選手を育てるチームでは「スポーツ遺伝子」の特性を把握し、競技力向上に生かそうとする動きが出てきた。

 運動能力に関係するとみられる遺伝子は60~70あるとされ、研究者はその中のACTN3遺伝子に注目する。この遺伝子には瞬発系競技に必要な瞬間的に強い力を発揮する速筋のタンパク質を作れるRR型とRX型、作れないXX型の3タイプが判明し、一般のジャマイカ人やアフリカ系米国人の9割以上がRR型かRX型に属する報告がある。筋骨隆々の黒人は速筋がつきやすい体質と言える。

 白人スプリンターにも黒人と同様の結果が出たという研究もある。2008年北京五輪陸上男子400メートルリレー銅メダリストの朝原宣治さんはRR型。東京都健康長寿医療センター研究所の福典之研究員は「瞬発系競技でトップ選手になるためにはRR型とRX型が鍵となる遺伝子」と説明する。

 福研究員が日本人で五輪出場選手と一般人のエネルギー代謝を担うミトコンドリアDNAを調べた結果、五輪選手の中で特定の型に持久系と瞬発系の競技者が集中したことが判明した。「遺伝子で自分がどの競技向きなのか特性が分かれば、日本人が欠けているものをトレーニングで補うことができるんじゃないか」と研究意義を語る。

 実際に陸上女子400メートル日本記録保持者の千葉麻美選手(ナチュリル)らを指導する福島大の川本和久教授は、スポーツ遺伝子を生かしたトレーニングを試みている。千葉のACTN3遺伝子は短距離向きではないXX型だが、エネルギー効率の特性を示すUCP1遺伝子では「省エネ型」。現在は筋肉量を増やす練習をやめ、スピードの持続力を磨く練習に取り組む。

 最近ではスポーツ遺伝子の簡易検査を行うスポーツスタイル社(千葉県船橋市)に子どもを持つ保護者からの申し込みが増えている。しかし、スポーツ遺伝子の有無や特性だけが運動能力のすべてを左右するわけではなく、研究途上の分野だ。

 遺伝子検査は「選手の選別に使われる」と危ぶむ声もある中で、川本教授は「遺伝子を通じて自分の特徴を知れば、必要のない練習を削ることができる。選手も才能を伸ばす一つの手段と理解している」。千葉選手は来年のロンドン五輪で自らの特性を生かし、800メートルで挑む計画を持っている。

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2011年1月17日のニュース