外堀埋められた横綱…引退選ばなければ解雇

[ 2010年2月4日 20:38 ]

朝青龍“暴行引責”引退!涙で「お世話になりました」

 横綱朝青龍関が4日、電撃的に引退を表明した。「けじめをつける」と自ら幕を引く態度を示したように映った。だが日本相撲協会理事会、横綱審議委員会(横審)はともに厳しい対応を迫っていた。引退を選ばなければ解雇―。事実上、角界を去らざるを得ない状況に追い込まれていた。
 ▽急転直下
 午前11時から始まった理事会。約50分後、会議室から出てきた出席者の表情は一様にこわばっていた。吉野凖監事が「もめてるよ。朝青龍関を呼ぶ」と漏らした。
 当初、この日の理事会では処分が決まる見通しは薄かった。協会内に設置した調査委員会が中間報告にとどめ、10日をめどに調査を終えると宣言していたからだ。
 暴行したとされる知人男性は鼻を骨折し、全治1カ月だと週刊誌が報じ、事件そのものは両者間で示談が成立。相手男性も高砂親方(元大関朝潮)に対し「当人同士ではもう終わっている。どうか寛大な処分を」とする手紙を送った。
 しかし事態は動いた。午後1時から再開した理事会は、朝青龍関と師匠の高砂親方を呼んで約20分、事情を聴いた。さらにもう一度、休憩を挟むという異例の断続的な会合。再度、理事会に2人が呼び込まれた。部屋を出た直後、朝青龍関の目は涙であふれていた。「いろいろお世話になりました。引退します」との突然の表明だった。
 ▽横審の怒り
 理事会前にまとめられた横審の総意が大きかったもようだ。武蔵川理事長(元横綱三重ノ海)は「横綱審議委員会の総意を理事会の冒頭に説明して議論に入った」と明かした。
 暴行したとされた相手が当初個人マネジャーとされ、理事長が朝青龍関を厳重注意。これを横審が受け入れた。しかしその後、相手が知人の一般男性と発覚。虚偽報告に横審の態度が急速に硬化した。
 特に横審の鶴田卓彦委員長の怒りは尋常ではなく個人的にも調査を開始した。「(相手の)鼻に1ミリの傷があって、ビデオにも写真にも撮ってある。非常に近い人の話なので間違いない」と言い切るほどの熱の入れよう。警察は事件として捜査していないが、場所中の未明にトラブルを起こした事実は変わらないと判断した。外堀はこうして埋まっていった。
 理事会後に開かれた横審の会合では正式に「引退勧告」を満場一致で可決。朝青龍関の引退表明を聞いた横審メンバーの反応について、沢村田之助委員は「みんな、よかったですねという感じだった」と、歓迎ムードだったことを明かした。
 ▽不名誉を回避
 朝青龍関はまさに四面楚歌だった。関係者によると、理事会では当初から解雇を求める声が上がったという。解雇なら横綱としては史上初の不名誉となるほか、協会の規約により、約3400万円の退職金や多額の特別功労金が減額されるか、手にできない可能性がある。相撲協会が午後からの理事会に顧問弁護士を加えたのも、退職金など法的側面を含めて対応したものとみられる。
 相撲協会は監督官庁の文部科学省に「理事会から引退勧告が出て、朝青龍関が引退した」と報告している。横審の意向を受けた理事会が事実上、引退を迫った形だ。
 理事たちの口は重かった。友綱理事(元関脇魁輝)は「(理事会での)処分について話をすると処分がある。だから言えない」。このかん口令が、協会の看板力士を去らせる重みを象徴していた。

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2010年2月4日のニュース