藤山健二の五輪主義
「トラックの女王」もう1つの戦い
陸上ヘルシンキGPの女子一万メートルで、福士加代子(ワコール)が今季世界2位の31分0秒64で優勝した。福士本人は30分48秒89の日本記録はもちろん、自己ベストの30分51秒81すら更新できなかったこともあって「またやっちゃった」と悔しがったが、欧州のGPシリーズでの優勝は大きな自信となったに違いない。
今季の福士は「スピードの切り替え」を最大のテーマにしている。世界レベルの選手がそろう海外でのトラック種目は、レース中に激しい駆け引きが繰り広げられる。1周ごとに先頭が入れ替わり、スピードも極端に変化する。福士はこれまでにも五輪や世界選手権で途中でトップに立ったことはあるが、中盤の激しいスピードの上げ下げで体力を消耗し、結局は肝心の勝負どころで先頭集団についていくことができなかった。その反省から今季は1周74秒からいきなり68秒に上げる練習を繰り返すなど、過去の苦い経験を踏まえた調整を続けてきた。今回のレースで記録が更新できなかったのは勝負に徹したからで、すでに30分30秒台ぐらいで走る力は十分備わっていると見ていい。
ただし、一万メートルでは入賞はできても、メダルとなるとかなり難しいのが実情だ。すでに24歳。マラソン転向を考えてもおかしくない時期なのだが、福士は「全然その気はありません」と否定する。今年2月に初めて走った丸亀ハーフマラソンでは1時間7分26秒の日本新をマーク。このスピードでフルマラソンを走ればどんな記録が出るのか楽しみだが、いくら水を向けても「それはない」と即座に否定されてしまう。実は福士は02年12月の全日本実業団女子駅伝で他の選手と接触して左ひざを痛めている。当初は軽傷と見られたが、その後じん帯の損傷が判明し、長期間のリハビリを余儀なくされた。ひざの故障自体はすでに完治しているのだが、やはり心の奥底では長い距離に対する不安があるのだろう。だが、その不安に打ち勝たない限り、選手としての進歩はない。トラックの女王が自分との闘いにどう立ち向かっていくのか。笑顔の裏に隠されたもう1つの戦いにも注目していきたい。(東京・運動部)
[ 2006年08月05日 18:08]
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