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親方&助手 新たな航海 音信絶って7年…再会そして再生

[ 2018年3月18日 08:24 ]

六郷水門をバックに祥一(左)と任伯。船長と助手から、親子関係をやり直している
Photo By スポニチ

 人生を海に例えるなら、家族は同じ船に乗り合わせた者同士。ナギの日も嵐の日も、力を合わせて波間を進む。東京湾で釣れるあらゆる魚を釣らせてくれる南六郷・ミナミの「親子船」には再会と再生の物語があった。 (笠原 然朗)

 ある事情から両親が離婚した。その後、音信を絶って7年。祥一は任伯と再会した。15年に他界したミナミの初代当主で祖父でもある重夫さんの通夜の席だった。

 祥一「どの面下げて行けばいいのか。合わせる顔がない。じいちゃんは俺のことを心配してくれていたのに。“じいちゃん不孝”です」

 任伯「笑わないし、人としゃべれない。最初はアルバイトで釣り船乗ったらって言った」

 肉体労働の仕事(引っ越しなど)をやっても長続きしない。その時、祥一は心に闇を抱え、引きこもりの生活を送っていた。

 任伯「いまさら親子関係やろうとは思わない。親づらするわけにもいかない。船長とその助手の関係なら付き合える。俺が“助手です”と言っているから、知らないお客さんは親子ということを知らない人もいる」

 祥一「(父のことを)仕事場では親方、船長と呼んでいます」

 任伯「船に乗せてみたら、船酔いするし、肌が弱いから日焼けしてやけどみたいになった。それで2週間休んだな」

 不思議な父子関係が再スタートを切った。

 任伯「俺は何も教えない」

 祥一「ウチは面倒見の良いお客さんが多いんです。だからマゴチを釣るときに使う餌のサイマキの付け方やマダコテンヤへのカニの結び方とか教えてもらいました」

 アットホームな雰囲気と世話好きなお客が多いのがミナミの特色だ。

 任伯「最近は出船前の釣り方講習会と、俺の趣味でもある仕掛け作りもやらせている。講習は長過ぎるよ」

 祥一「(親方は)お客さんの心をつかむ話術が凄い。夜アナゴ釣りでお客さんが釣ったアナゴをさばくのを見て、この仕事の大変さも分かった」

 任伯「お客さんの個性や雰囲気を読むことが大事。仕事のやり方は自分のスタイルでいいんじゃないかな。でも(人として)丸みが足りない。もっと砕けてもいい。接客業なんだから。メールもちゃんと返信しないとな」

 酒は飲むがタバコも、ギャンブルもやらない。女性も苦手。そんな祥一は4月中旬から独り立ちしてかじを握ることになった。

 祥一「楽しみです。右も左も分からないけどお客さんとたわいもない会話をしたり。初めてのお客さんも入ってきやすい、面倒見の良い船長になりたいです。希望があるということはやはりいいですね」

 任伯「船長になれるぐらいにはなってきた。俺ごときを超えるのは難しいことではない。ただ、まねはできない。俺は感性がある船長だから。祥一、おまえに客がつかなかったらホストクラブにアルバイトに行けって」

 親子が離れて暮らしている間も、取材で乗るたびに、任伯は私に祥一の話をした。「(部活の)野球で忙しそうだ」「街で見かけたが、デカくなっていた」「最近、連絡がないんだ」。そんな話を祥一にすると、意外そうに「そうなんですか…」。少し目が潤んでいたかもしれない。親の心、子知らず。そして子の心、親知らず。任伯が席を外しているときを狙って祥一に聞いた。「将来的にはライバル?」。「ミナミの看板はマダコとアナゴ。それだけは親方に負けないぐらいにはなりたい」

 ▼釣況 東日本釣宿連合会所属、南六郷・ミナミ=(電)03(3738)2639。

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