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黒森毛バリに亡き師思う 「幻のテンカラ」発祥の地 8年ぶり訪問

[ 2017年8月11日 10:57 ]

護岸の上から「黒森イワナ」を狙う
Photo By スポニチ

 【釣りバッカ天国】釣りバッカ歴50年。本職は渓流のルアー&フライと心得るが、横道にそれたことも何回か。その一つが「甲州・黒森毛バリ」で、1990年代初めに熱中した。数ある毛バリ釣りの流儀の中で、最も硬派と言われる「幻のテンカラ」の発祥の地をバッカが訪ねたのは8年ぶり。富士川水系の最源流、山梨県北杜市須玉町小尾(おび)の黒森集落…。(スポニチAPC 若林 茂)

 思い出深い入渓点が次々に。釜瀬川沿いを走る車窓から「ここだ!」のポイントを探っていくと、やはりいた、やっぱり出た。やや小ぶりだが腹ビレのオレンジ色が鮮やかな18センチヤマメ。ザラ瀬の水面を叩くように打ち込む独特のテンカラ釣り。瞬時の合わせも何とか決まった。お次はなんとアブラハヤ。あっ、10センチほどの黒い魚体がカツオの一本釣りのように宙を飛んだ。

 あと2キロほどで信州峠、越えれば長野県の川上村という山梨県最北の黒森集落。25軒、48人が暮らす集落の最上流に民宿「五郎舎」(ごろうや)がある。バッカが黒森毛バリの師として慕い、長老として敬った故藤原五郎さんが建てた宿。81歳で五郎さんが亡くなって今年で13年になる。後を継いだ次男・広吉さんの妻・多喜子さんが迎えてくれた。

 「このごろ、釣りのお仲間はめったに見えなくなってね…。お父さん!若林さんですよ」。仏壇を前にしんみりする多喜子さん。バカ弟子は遺影に向かって思いっきり大声で叫んだ。

 「五郎さん、遊びに来ましたよーっ」

 日本百名山の一つ瑞牆山(みずがきやま)登山のベースとして今や大人気の五郎舎。五郎さんの本懐ではなくても、黒森毛バリ自体が幻の無形文化財と化しているのだから。それにしても「釣り人見えず」というのは写真のモデルにも困るのだ。

 「毛バリ仲間でも呼んだらどうかしら」は多喜子さん。しかし、前回同行した隣町在住の赤岡昌二さんの携帯は応答なし。この集落の名手・藤原保さんも「今、韮崎なのよ」で無理…。

 結局「私、この下流で釣りますから、カメラお願いします」

 五郎舎から50メートルほど下の黒森川はこの地の名産・花豆の畑に沿った小さな沢。あえて高い護岸の上から竿を振るのは、実は15年前、最後の釣り姿を撮影したときの五郎さんと同じポーズ、同じ場所なのだ。多喜子さんもあの日、あの紙面を思い出したようだ。

 「もう、いいでしょ。もう、終わり」

 カメラを返してきた。涙ぐんでるの?…。

 五郎さん、俺、もう、泣きそうです。

 ▼釣況 峡北漁協=(電)0551(27)2580。日釣り券800円。五郎舎=(電)同(45)0329。1泊2食付き7300円(税込み)。

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