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農家から漁師の妻 180度転換 人生行路 釣り宿守る

[ 2017年6月22日 08:22 ]

釣り船を始めて以来45年近く活躍する大栄丸の前で                             
Photo By スポニチ

 【釣り宿 おかみ賛】マコガレイなど季節の釣りものが楽しめる茨城県大洗の大栄丸。女将の大川喜久枝さん(68)は生まれ育った環境と180度違う家に嫁ぎながらも当主で夫の茂さん(69)と二人三脚で釣り宿を守る。女将業も子育ても持ち前の真っすぐな性格で乗り越えてきた。 (入江 千恵子)

 1949年(昭24)4月、茨城県息栖村(現神栖市)の農家に喜久枝さんは生まれた。合わせて4ヘクタールある畑でトマトやキュウリ、米などを作り、両親は早朝から夜遅くまで働いていた。「昔は機械がないからピーマンの袋詰めを手伝ったりもしましたね」と懐かしそうに振り返る。

 4人きょうだいの一番上で中学卒業後は地元の高校に進学。真面目な性格が評価され学校推薦で銚子信用金庫に就職し窓口業務にいそしんだ。

 やがて弟のお嫁さんの紹介で漁師だった茂さんと出会い、初デートは大洗水族館(現アクアワールド茨城県大洗水族館)へ。農家育ちの喜久枝さんは、水槽の中で泳ぐサメやハリセンボン、色鮮やかな魚たちを「全部、大洗で釣れる魚と思って見てました」と笑う。

 その後、茂さんは片道1時間15分かけて神栖へ足しげく通い、1年後にめでたく結婚。

 「見合いがきっかけの恋愛結婚かな。穏やかでうそをつかないところが良かったね」と茂さんは顔を赤らめた。

 喜久枝さんも「一生懸命に仕事するところがいいなと思って」とほほ笑んだ。

 同時期に釣り船も開始。「こういう商売があることも知りませんでした」と語るほど、育った環境との違いに苦労もあった。

 「農家は一家での仕事だけど釣り船は多くの人が関わるからね」。さらに「釣れるのは水族館で見た魚じゃなくシラスだった」といたずらっぽく笑った。

 船に積み込む食事を作っていた時は夜に仕込みをして翌朝は3時起き。夏は民宿の対応もあった。並行して子育てにも追われる日々。週末の授業参観や運動会も行くことができなかった。

 目まぐるしく過ぎていく毎日に「疲れた」と思うこともあったが「世の中の誰もがやっていること」と無我夢中で働いた。

 のちに3人の子供たちは大学を卒業し独立。現在は2人の生活をおう歌している。

 お客さんに出しているぬか漬けのキュウリは家庭菜園で栽培し、ぬかは「煮干しや昆布、ニンニクなどを混ぜてフライパンでいったものを継ぎ足しで4〜5年使っているの」とおいしさの秘密を教えてくれた。

 「実は取材の3日前から何を話したらいいか緊張していたんです」と喜久枝さん。「昨日はパーマ屋にも行ってたもんな」と茂さんが明かした。

 「釣り宿は私たちの代で終わりだけど、お客さんが楽しい一日を過ごしてもらえればと思っています」

 今日も喜久枝さんは港で船の帰りを待っている。

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