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笑う夫婦にフグきたる 息の合った掛け合いで1000匹さばく

[ 2017年5月28日 07:43 ]

弘清丸の前で仲良く寄り添う小沼夫妻
Photo By スポニチ

 【釣り宿おかみ賛】ショウサイフグを中心とした釣りものが楽しめる茨城県大洗の弘清丸。女将の小沼ななさん(39)は中国出身。流ちょうな日本語と、底抜けに明るいキャラで、お客さんの人気者。当主で船長の夫・満さん(59)を支え、異国の地での“女将さん業”も板についている。(入江 千恵子)

 ななさんは1977年(昭52)9月、北朝鮮との国境近くにある吉林省延吉市で2人姉妹の長女として生まれた。父は車の製造・販売をする会社員、母は小学校の教師で生活に不自由することなく育った。

 日本の高校に相当する高級中等教育卒業後は市内の百貨店に就職。電化製品売り場で販売員として働いた。

 やがて、旅行ガイドになる夢を抱き日本への語学留学を決意。02年(平14)3月、24歳のとき茨城県友部町(現笠間市)の日本語学校に入学した。勉強の傍ら定食店のアルバイトに励み、半年後、運命の出会いが訪れる。常連客の満さんがななさんに「暇なら飯食いに行くか」と声を掛けた。言葉に不自由しながらも懸命に働く姿に引かれたのだという。

 「年も離れてるし、最初はただ誘っただけ」だと思った。でも「ケチじゃないのが良かったよ」と大笑いする。そして「日本語を辞書で見ながら細かく教えてくれたんですよ」。満先生が教える日本語の発音は、NHK連続テレビ小説「ひよっこ」に出てくるような正統派の茨城弁だった。

 慣れない異国の地で満さんの存在は心強かったのだろう。筑波山や東京ディズニーランドでデートを重ね、満先生の指導もあり、日本語も周りの友達より早く上達していった。

 しかし、2人に国境の壁が立ちはだかる。2年間の留学ビザが切れる日が近づいてきた。延長には学校の授業料として60万円の費用がかかる。お金を払えなかったわけではなかったが、「うちさ(お嫁に)来たらいいべ!」という満さんの熱心なプロポーズを受け04年3月28日に結婚。日本名の「なな」は中国名「玄花」の日本語読み「はな」の「な」を残し満さんが命名してくれた。

 20歳のころ、手相占い師に「あなたは国内(中国)には住まない。東に行って結婚して大きくなる」と言われたことがあった。それが本当のことになった。

 結婚後は、お茶出しや船の掃除をしているとお客さんも日本語を教えてくれた。3年が過ぎたころ予約の電話を受けられるまでになった。

 ななさんは明るく説明も丁寧で満さんは「ななが電話に出るようになって、お客さんが3〜5倍になったんじゃないかな」と笑う。

 ななさんの“正直ぶり”もお客さんから信頼を集めている理由だ。

 「お客さんには来てもらいたい。でも海のことだから明日のことは分からないし、絶対にうそは言いたくない。釣れなかったときは釣れなかったと、真実を伝えるようにしている」と話す。

 フグをさばくのもお手のものだ。1000匹のフグを2人で4、5時間かけてさばくこともある。長時間の作業にも耐える手は男性のようにたくましく厚みがあった。

 占い師の予言から20年。中国からはるか東の大洗町で送る幸せな日々。休日の息抜きは夫婦で温泉に行くこと。なかでも常陸大宮市の三太の湯は「肌がすべすべになる」とお気に入りだ。

 「ななはまだ若いし、俺もあと15年は頑張らないとな」と満さん。

 「長生きしてもらわなきゃいけないから、良いもの食べさせてるよ」と夫婦漫才のような掛け合いと笑い声が響いた。

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