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【さくらいよしえ きょうもセンベロ】ド新鮮公約 豚民ファースト

[ 2017年11月10日 12:00 ]

定員のTシャツには「都民ファースト」ならぬ「豚民ファースト」
Photo By スポニチ

 モツ肉を食べてブイブイ言わせようゼ!とセンベロライター・さくらいよしえが訪れたのは東京・高田馬場の「やきとん みつぼ 高田馬場店」。「つぶしたて」の豚の新鮮なモツ肉を頬張りながらほろ酔った。話を聞いた熱血オーナーには仕事のほかに意外な顔があった。

 高田馬場の線路脇にあるモツ焼き屋。腰掛けに座ると背中と背中がぶつかるほどの大賑(にぎ)わいだ。

 壁には「『部位』『部位』言わせます!」「豚民ファースト」という名コピー。16種もの新鮮な豚モツが食べられるらしい。

 まずはとろとろに煮込まれた豚の尻尾に悶絶(もんぜつ)。甘いタマネギがからまるホルモン炒めは、肉厚なシロがかみしめるたび弾力ではね返す。さらに悶絶。

 肉汁を放つ、チレにテッポウ、口の中でほどける優しい豚ナンコツ。そして、カラリと揚がった衣に、妖艶にとける豚足の唐揚げは感動の名作だ。

 豚を知り尽くし愛し抜いた者が築き上げたもつ料理天国。

 開業は1989年(平成元年)。いい風合いに皺(しわ)が刻まれたワイルドなマスターは、30すぎまでサラリーマンだったらしい。「遊んでばかりいたから貯金ゼロの“落ちサラ”です。今度こそガチンコで働いてやろうと思って」なぜかフリーターに華麗なる転身。

 やっぱりお金はたまらない。だがバイト人生の中でもともと興味があった串焼き屋で、あることに気がついた。

 「豚のモツってどの店も大概冷凍だ…。だからおいしくないのかも!新鮮なモツ焼きを出したら売れるんじゃないか?」

 ついに、ガチンコ魂の夜明けである。電話帳をめくり食肉市場にアプローチ。素人など門前払いの世界だが、なんとか1社だけ契約にこぎつけた。 

 毎朝バイクで市場に行き捌(さば)かれたばかりのもつを仕入れ、すぐに串打ち。

 40を過ぎていた。中年実業家の店は、「つぶしたて」という当時珍しい売り文句で大当たり。大手チェーンが跋扈(ばっこ)する中、現在3店舗も経営する。

 夢がある。中年の希望の星だ。「商売は気力体力、あと見る目(着眼点)」。ふむふむとうなずきながら、店主の年齢を計算する。見ためと辻褄(つじつま)が合わない。「もう古希ですよ。若さの秘けつ?(てへへ)。豚と歌とエルビスかなア」

 55歳からは洋楽をガチンコスタート。今年、全国の“エルビス・プレスリー”が集う「日本エルビスコンテスト」の最終選考に最年長にして見事残ったそう。

 リズミカルに串を返す馬場のエルビス。焼き場からもうもうと上がる煙はステージスモークか。豚を骨まで愛した男の絶品もつ。Can’t help falling love…? (さくらい よしえ)

 ◇やきとん みつぼ 高田馬場店 店名の由来は1989年、学習院下の神田川のほとりで店が3坪(5席)でスタートしたから。現在、高田馬場店のほか池袋、江戸川橋と3店舗を展開。「東京やきとん」を代表する店の一つだ。メインの焼きトンの串焼きは16種類。ほか珍しいモツ料理のほか野菜や魚などサイドメニューも充実している。東京都新宿区高田馬場4の4の34。(電)03(3363)9094。営業は午後4時45分から深夜0時。日曜・祝日定休。

 ◆さくらい よしえ 1973年(昭48)大阪生まれ。日大芸術学部卒。著書は「東京★千円で酔える店」(メディアファクトリー)、「今夜も孤独じゃないグルメ」(交通新聞社)「にんげんラブラブ交叉点」(同)など。

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