×

旅・グルメ・健康

【全国ジャケ食いグルメ図鑑】北の町で出合った地味な店構えに控えめ文字…なんだろう

[ 2017年10月27日 12:00 ]

北海道中標津「三久」の入り口
Photo By スポニチ

 人気ドラマ「孤独のグルメ」の原作者、久住昌之さんが外観だけで店選びをする「全国ジャケ食いグルメ図鑑」。店構えだけでは、何の店か見当つかない時ありますよね。中でも、そば屋なのか居酒屋なのか分からない店は結構多いです。北海道で、食べログなどのグルメサイトでも一切紹介していない謎の店、行ってきました。

 北海道の道東、中標津に行った。初めてだ。仕事を終え、北海道の人と飲みに行こうと。でも1軒目は自分で探させてほしいと頼んで、飲食店が多そうな場所を歩き回り「ここ」と決めたのが、この「三久」。ビルの1階に入っていて、既製品の「手打ちそば」という大きめなノボリはあるものの、いたって地味な店構え。

 ボクのカメラではトンでしまったが、入り口上の蛍光灯の入った看板には「そば処 居酒屋 三久」とある。その「居酒屋」の文字がものすごく小さい。そこがまず気になる。あまり居酒屋扱いされたくない居酒屋なのか。

 辛子(からし)色っぽいのれんの右端下に、これも小さく墨で「三久」と染めてある、この控えめさはなんだろう。

 おでんもあるようだ。ビールはサッポロクラシックのようだ。これも嬉(うれ)しい。

 メニューや値段が一切出ていないから、これは勝負だ。のれんをめくり、ソロリと引き戸を開けてみる。L字カウンターだけの店だ。そのカウンターが広めで、厨房(ちゅうぼう)も広めで、カウンターの中に女将とおぼしき人が一人。よさそうだ。入る。連れの北海道の人たち(中標津の住民ではないが店はいろいろ知っている)は、誰も知らない店だった。

 結構古そうだ。カウンターの前の食器棚のガラスに、マジックで書かれたメニュー短冊がたくさん貼ってある。

 かきフライ900円。豚串2本400円。鮭(さけ)ハラス焼550円。いいじゃないか。

 ビールを頼んで、北海道だから、とうきびの天ぷらと生干しこまいを頼む。さらに、せっかくだから、おでんを頼む。北海道のおでんの特徴である竹の子(細いやつ)と、道東名産の玉ネギを頼んだ。玉ネギのおでん、初めて。

 揚げたての、とうきびの天ぷらは、口当たりが楽しく、香ばしくて甘くてビールに最高。こまいもさすがにうまい。玉ネギのおでんも甘くて、味がしみていておいしい。

 玉子みそ(500円)という聞いたことないメニューがあり、どういうものか聞く。女性店主は簡単に説明してくれた。

 味噌を溶いた生卵にたっぷりの刻み葱(ねぎ)を振ったのをホタテの貝殻で煮る。「玉子みそ」で検索したけどこういう「玉子みそ」は無かった。この店のオリジナルか中標津式か。出てきたのをみた瞬間、冷たい日本酒を頼んだ。バッチリだ。

 もう一軒、取材がてら行かねばならなかったので、ここはそば寿司で締めた。文字通り蕎麦(そば)を海苔(のり)巻きにして、醤油(しょうゆ)をつけて食べる。軽くてアテにもなる。

 メニューを見ると、普通に温かい蕎麦と冷たい蕎麦があり、さらに「かき雑炊」「とり雑炊」「そば屋のカレーライス」なんていう魅力的な食事メニューもある。

 「どんざるそば」「もりぬきセット」という謎のメニューもある。これは店主に聞いてわかったけど、答えはここに書かない。世の中には、携帯で検索したからってわからないものがたくさんあるのだ。

 ここの女将は、何か聞けば親切に教えてくれるが、それ以外余計な話をせず、お客さんとの距離がボクはすっごく好きだ。居心地いい。近所にあったら、絶対一人で通うと思う。遥(はる)かな北の町でいい店を見つけられて嬉しい。

 ◇三久(さんきゅう)1988年(昭63)12月創業。30年女将1人で切り盛りしてきた。「居酒屋」の文字が小さいワケは「本当はおそば一本でやりたかったけど、中標津の人口(約2万3000人)じゃ無理でねえ」。1番人気は「かしわそば」(750円)。謎のメニュー「どんざるそば」は、酔客の「つゆにつけて食べるのが面倒」という要望に応えたどんぶり料理。「もりぬきセット」の正解は、あまりに想定外なのでぜひ直接確かめに行ってください。北海道標津郡中標津町大通北1の5。(電)0153(73)5439。営業は午後6時〜深夜1時。日祝定休。

 ◆久住 昌之(くすみ・まさゆき)1958年、東京都生まれ。漫画家、漫画原作者、ミュージシャン。81年、和泉晴紀とのコンビ「泉昌之」として月刊ガロで「夜行」でデビュー。94年に始まった谷口ジローさんとの「孤独のグルメ」はドラマ化され、新シリーズが始まるたびに話題に。舞台のモデルとなった店に巡礼に訪れるファンが後を絶たない。フランス、イタリアなどでも翻訳出版されている。

続きを表示

この記事のフォト

バックナンバー

もっと見る