サブカテゴリー

ホビー&ライフ リカー&グルメ ファッション チャレンジライフ
「都内にこれだけの緑があって歴的建造物が残されているのは稀有なこと。今後も歴史的空間との調和が楽しめる展覧会を企画していきます」という東京都庭園美術館の学芸員、大木香奈さん

休日を美術館で過ごすだなんて、そんなの柄じゃないから、と思い込んでいる中年男性も少なくないだろう。実際に美術館に足を運ぶのは女性かリタイア組が中心。30~50代の働き盛りの男性の姿はあまり見られないのが現状のようだ。私見ではあるが、まだアメリカや欧米諸国の美術館の方が、老若男女幅広い層の支持を集めているような気がする。それは欧米諸国においては美術館がコミュニティの場として機能しているのに比べ、わが国においては国であったり、選ばれし人々の所蔵品を"見せてあげよう"というスタンスにあることに起因するとの指摘もある。とにかく、一言でいえば"敷居が高い"のだ。
「元々、この東京都庭園美術館には、他館のように絵画や彫刻ばかりではなく、工芸やデザイン、ファッションといった、誰もが入りやすい装飾美術を扱うというコンセプトがあります。ですから、"美術館だから"と身構えずに来館していただきたいと思います」というのは、東京都庭園美術館の学芸員である大木香奈さん。展示されているすべての作品を見て理解しようと考えるのではなく、何かひとつでも発見があったらいい、そんな感覚で楽しめばいいのだといいます。それは日常生活の中で、ふとしたことに幸せを感じるような感覚に近いのだとか。
「そういった意味で、私たちの美術館は展覧会だけでなく、美しい庭があり、アール・デコ様式の旧朝香宮邸がある。お庭で写真を撮影されている方や、建物そのものを見学されたり、あるいは敷地内に用意されたカフェでゆっくりお茶を飲むなんて方もいらっしゃる。それぞれの過ごし方で、ゆったりとした時間と心地よい空間そのものをお楽しみいただければと思います」

並河靖之 (部分)藤草花文花瓶 並河靖之七宝記念館蔵

とはいえ、まずは美術館に足を運ぶ、何らかのきっかけは必要だ。グッドタイミングで現在、我々のような決してアートに明るくない中年男性でも、すっと馴染んでいけるような展覧会が開催されている。
「今年の1月14日から4月9日までの期間、当館では、明治期に活躍した工芸家・並河靖之が手掛けた七宝作品を展示しています。実は、作品の魅力もさることながら、並河の生涯そのものに魅了されるビジネスパーソンや経営者の方々が多く足を運んでいるのです」
七宝とは金属工芸の一種で、金属製の下地の上に釉薬を乗せて焼成したもの。シガレットケースや香水瓶から大きな壺まで、様々な作品が残されている。
「並河靖之は、江戸末期、京都の武家に生まれたものの、三男坊であったため、養子に出された先で宮家に仕えたまま明治維新を迎えることに。困窮した家計を支えるために、鶏の飼育や団扇の骨づくりなどを手掛けたのですがすべて失敗に終わります。唯一道が開けたのが、この七宝でした。並河が生きた明治期に当時の政府は、この七宝という産業を外貨獲得のため国策として注力。時代の流れをキャッチした並河が工房を立ち上げ、プロデューサーとして試行錯誤を繰り返しながら、世界中の人々を魅了する美しい作品を残していきます」
そんな波乱万丈なサクセスストーリーを聞けば確かに、現在を生きるビジネスパーソンの共感も得られそう。しかも、海外への輸出を目的としていたため、審美眼がないと楽しめないような芸術品ではなく、誰もが一目見て、素直に美しいと感じる、わかりやすい作風が特徴だというから、なおさら安心だ。ドラマチックな並河靖之の生涯と併せて作品そのものも楽しむことができそうだ。

並河靖之 菊紋付蝶松唐草模様花瓶 一対 泉涌寺蔵
京都並河図案部 七宝下図「桜花蝶文皿」 並河靖之七宝記念館蔵

今回の展覧会は大木さんの並々ならぬ"並河愛"によって実現した側面があるという。
「私自身、学生時代に並河の作品に触れて衝撃を受け、以来、その時のことをずっと忘れずにいました。この美術館に勤務するようになり、いずれは彼の回顧展を実現したいという思いがようやく実りました」
当時、海外への輸出が中心であった並河靖之の作品は世界中に点在。この展覧会を開催するまでに5年もの年月を費やしたという。まさに大木さんの情熱がなくして実現できなかったに違いない。
「"細い筆で描いているのでしょう?"と勘違いされる方も多いのですが、そうではなく、金属素地にリボン状の植線を立て、そこに釉薬を流しこんで7回焼成し、さらに研磨して仕上げています。ものすごい手間と時間が掛けられているのです」
その圧倒的な技術力もさることながら、大木さんは、ただそれだけに終わらない魅力があると力説する。
「並河の作品には、まず、ぱっと見たときに"美しいぞ"と人の気持ちを動かすチカラがあって、なおかつ、そういった素晴らしい技術が詰まっているのだという二重の驚きがあります」
裏を返せば、技術力が高いだけでは、世界中の人々を魅了するモノは作れない。なんだか、並河靖之の作品の中に、現在の日本の製造業が抱える課題を打破するヒントみたいなものが見つかりそう。
「技術が作品を生み出しているわけではなく、やはり作品を生み出しているのは人なので、人の心を動かすセンスや美意識は必要不可欠。そういった観点から、現在を生きるビジネスマンの方々が並河の作品を鑑賞するのも面白いかと思います」
単純に作品の圧倒的な美しさに酔いしれるも良し、並河靖之のドラマチックな生涯を追いかけてみるも良し、何かビジネスのヒントになりそうなものを見つけるも良い。とにかく、この並河靖之七宝展をきっかけに、自分にとって、もっとも心地よい美術館での過ごし方を見つけてみてはいかがだろうか。

■取材協力
東京都庭園美術館
http://www.teien-art-museum.ne.jp/

■取材協力

東京都庭園美術館
http://www.teien-art-museum.ne.jp/

 

プロフィール 【伊藤秋廣(A.I.Production)】
年間300人超の実績。ビジネスパーソンからドクター、アスリート、文化人、タ レントまで幅広く対応するプロ・インタビュアー。対話の中から相手 の“哲学” を引き出す力に定評あり。ライティング専門プロダクション 「A.I.Production」を運営する。
http://www.a-i-production.com/

 

【楽天】オススメアイテム
クイックアクセス

このページの先頭に戻る ▲