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【コラム】山内雄司

「平山よ、目覚めてくれ!」

FC東京の平山相太

 ちょっと風邪をひいたので早めに寝ることにした。しかし、いつもの夜更かし癖のためかどうにも寝つけない。仕方ない。活字でも見れば眠くなるだろうと本棚へ。そこにはかつて編集していたサッカー専門誌がぎっしり詰まっているのだが、数冊がピョコンと飛び出している。こうなると気になるもので、背表紙が揃うように直し始めたが、詰まり過ぎていてうまく入らない。そこで飛び出した号を抜いて、両側の号を押し広げてから収める作業に没頭してしまった。夜中に何をやってるんだか。で、抜いた号の表紙に何気なく視線を移したところ、ある選手の名前を見つけて思わず「ふぅーむ」と息を漏らす。申し訳ない話だが、最近はその名前をほとんど思い浮かべることはなかったので、少なからず感慨にふけってしまった。うん、確かに期待していたな。でも、いつのまにそんな気持ちを失ってしまったのだろうか。これも何かの縁か? そこで彼のことを記してみる。

 その選手は早くからスターだった。プロでもないのにメディアでも大きく取り上げられ、そのプレーには多くの人々が関心を寄せた。近い将来には日の丸の中心として世界と伍して戦うはず。そう考えた人も少なくなかったのではないか。そう、私もそのひとりだった。それだけに、その名を思い浮かべられなくなった現在に困惑する。

 男の名は平山相太。国見高時代から全国に名を轟かせた怪物だ。実際、プロ入り前から堂々たるキャリアを刻みつける。2度のワールドユースにオリンピック出場。その後、筑波大を休学してオランダ1部のヘラクレスに加入する。Jリーグを経ないで“海外組”となる、当時としては驚くべき快挙である。そしてオランダデビュー戦で2ゴール。この離れ業に日本の多くのファンは喝采したことだろう。このシーズン、チーム最多得点の活躍。「たられば」になるが、このまま欧州で過ごしていたならどういう現在になっていたのだろうか、とも思う。

 日本人離れしたサイズ、抜群というわけではないが足下の技術にも優れている。少しスピード感には欠けるが、よく「遅い」と言われるほどモッサリとはしていないと思う。少々細かすぎるかもしれないが、私が好きな平山のプレーは浮き球のトラップからマイボールに収めるもの。ある試合でそれを見て唸ったものだ。DFを背負いながら浮いた球にジャンプして空中で胸トラップ。着地時に少し尻を張り出してボールをDFから守り、次の瞬間に鋭いターンでゴールへ向いた。その身体の使いこなしに驚愕させられたのだ。いわゆる懐が深いというもの。それまでの日本人FWにはない、規格外の凄みを感じた。

 帰国し、FC東京入りした彼はゴールへの意欲に物足りなさを感じさせるもののまずまずの働きだったように思う。だが、これこそが彼の欠点であったのだと今になれば理解できる。どうにも淡泊なのだ。そこそこのプレーはするが、最後の局面でサイズを活かしきれない。強引にシュートに持ち込む力強さに欠ける。「まずまず」とか「そこそこ」を本人も我々も求めてはいけない選手だったのに、野心を表に表さない、あるいは表れにくいキャラクターのせいか、いつしか私も「そこそこ」に誤魔化されてしまった。Aマッチ初試合でハットトリックを果たすなど、本来はそれほどの実力と強い星を持ち合わせているのに、もっと怪物チックなプレーができるはずなのに……。

 その名が取り沙汰されなくなって久しい。しかし、真夜中の汚い部屋で、私は再び彼を意識した。そして、これまで幾度となく願い、もはや自分でも忘れてしまっていた言葉を思い出した。

「平山よ、目覚めてくれ!」

 昨年は負傷でシーズンのほとんどを棒に振った。先日、また負傷してしまったが、さほど重いものでないと聞く。ならば、また期待してもいいのかもしれない。今度こそ目覚めてくれるかもしれないじゃないか。26歳。まだまだ老け込んでもらっては困るが、チャンスは確実に狭まってくる。日本にこんな恐ろしいストライカーがいたのかと世界に知らしめるとしたら、ワールドカップとしてはブラジルが最後の舞台になるかも。一度でも怪物に夢を見せられた者は、その呪縛?からはなかなか逃れられない。

「お願いだ、目覚めてくれ! そして急げ!」

 おかげでますます寝られなくなり、やがて私は高熱を発した。ヒラヤマ風邪は実にタチが悪い。(山内雄司=スポーツライター)

[ 2012年5月11日 ]

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