【コラム】山内雄司

ドルトムント爆発事件 テロに抗う姿勢や方法論の議論は必要

欧州CL準々決勝第2戦モナコ戦、ベンチで試合を見守るドルトムントのDFバルトラ
Photo By AP

 衝撃的な事件からおよそ10日が経過した。現地では異なるのだろうが、こと日本においては出来事の重要性の割に、後追い報道や議論があまり見受けられず、早くも沈静化したかのような気配さえ漂う。

 それでいいのだろうか。個人的にはとんでもない出来事だという認識であり、だからこそ「衝撃的」と書き出した。大袈裟だとは思わない。もっと重く見るべきではないか。考えるべきではなかろうか。

 11日(現地)、チャンピオンズリーグ準々決勝第1戦に向かうドルトムントのチームバスがテロ行為の標的にされた。バス付近で3回の爆破があったという。この結果、マルク・バルトラが負傷し、病院で治療を受けることになってしまった。

 たいしたことがなくて良かった――。たしかに死者はなく、ひとりの軽傷で済んだ。あくまでも被害の程度で言うなら、胸を撫で下ろしていい。しかしながら、起こってしまったことは、とんでもなく「たいしたこと」であり、「良かった」なんて冗談でも言えないレベルである。

 このテロは明確にドルトムントというチーム、しかもその象徴である所属選手たちに向けられた。卑劣な犯人、あるいは犯行グループにどこまでの計画や意図があったのかは今後明らかにされていくだろうが、爆発物が実際に破裂したのだ。もっと多くの血が流れ、命が奪われていた可能性は十分にあった。それを考えると、当事者でもないのに震えが起こる。

 もちろん、厳重な注意のもとで警護されていたはずである。でも、爆破は遂行されてしまった。今後も同様の計画が成されない理由は見当たらない。選手が避けて通れない移動時、しかも一同に巻き込むことのできるバス移動時を狙われたのだ。世界中のクラブチームが標的となる可能性が示されたことになる。

 さらなる厳重な警護の必要性や、警察をはじめとする機関との情報共有など、爆破を未然に防ぐ手立てを講じなければ、スポーツとて守られない時代になったと、はっきりと認識しなくてはならないだろう。たいしたことがなくて良かった、と言っていては、手遅れになる。クラブチームだけの問題ではない。各国の協会や連盟、そしてFIFAが、危機への具体的かつ多様性ある対抗策を掲げ、クラブと連携することが求められるだろう。

 今回、延期された試合は、UEFAの速やかな決定により翌日に行われた。これも議論すべき点である。十分な安全性が認められたからこその翌日開催であったのは理解できるが、それでも犯行の一部始終が明らかとなったわけでもない。第二、第三の計画があった可能性もあり、個人的にはもっと捜査を進めるうえでも日を置くべきだったと考える。

 トゥヘル監督や複数の選手たちは「ビールの空き缶のような」「動物のような」扱いを受けたとコメントし、香川も「気持ちの整理が難しかった」と言う。当然だ。テロの標的とされ、爆破に遭い、チームメイトが負傷した。どれほどの不安や緊張に苛まれただろう。そんななか「身体は無事なんだからできるね。じゃ試合しなさい」と言われたようなもの。心身をさらに追い詰める行為ではなかろうか。

 状況は個々に違ってくる。現場の判断が重要なのは分かる。ただ、こうしたテロ行為に巻き込まれた際、試合の延期、開催に関してのガイドラインも議論の必要性がありそうだ。選手はプロである前に人間である。彼らが人間扱いされなかったように感じる決定があって良いはずはない。

 ネットに次のような記述があった。

 『翌日開催は英断であり、それによりテロに抗う姿勢をみせた。選手たちはヒーローである』

 書かれた方の意見としては尊重する。だが、私は反対する。テロに抗う姿勢は動揺する選手に託すものではない。ましてや決定に従うしかなかった選手たちをヒーローと持ち上げるのは筋違いの賞賛であり、選手もそんなことを求めてはいないはずだから。

 大きな被害がなかったのは不幸中の幸いとして、しかし胸を撫で下ろすことなく、ますますサッカー界、スポーツ界全体でテロに抗う姿勢や方法論の議論を進めていかなければならないだろう。嫌な時代だが、そんな時代で我々はサッカーに、スポーツに夢を見出している。暴力に屈せず、しかし誰の血も流さず、命を失わず、これらを守っていく気概を示していけたらと考える。(山内雄司=スポーツライター)

[ 2017年4月22日 06:00 ]

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