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【コラム】戸塚啓

一歩前へ踏み出した大宮アルディージャ

[ 2013年8月23日 06:00 ]

大宮に加入したオーストラリア代表主将のDFニール
Photo By スポニチ

 思い切った決断をしたものである。監督交代に踏み切った大宮アルディージャだ。

 7月13日の16節から5連敗を喫したとはいえ、ベルデニック前監督解任時の順位は4位である。連敗中にはダブルボランチの青木、金澤が出場停止となり、ノヴァコヴィッチ、ズタラン、下平らの主力がケガで戦列を離れていた。エクスキューズはあったのだ。

 それでも指揮官を交代させたところに、クラブの変化を読み取ることができる。

 シーズン当初に前年を上回る目標を掲げるものの、夏の終わり頃から切迫した状況に陥るのが、これまでの大宮のパターンだった。最終的にはJ1残留が運んでくる安堵感が、目標を達成できなかった事実を覆い隠すようなところがあった。

 今シーズンは違う。すでに勝点36を稼いでおり、クラブが掲げた目標の「53」は十分に到達可能だ。53以上も視野に入る。2005年のJ1昇格以来、9シーズン目にして初めて訪れた上位進出の好機だ。

 U-21日本代表でアジア大会優勝の経験を持つ富山貴光が今季加入したように、大宮も有望なタレントを獲得できるようになってきた。一度もJ2に降格していない事実が、リクルーティングのうえでセールスポイントのひとつになってきている。

 浦和レッズをはじめとして近隣にJクラブが複数ある環境下では、下部組織の人材確保も競争が激しい。ここでも魅力を放つのは、トップチームの成績である。ジュニアユースやユースでいままさにプレーしている選手たちにも、トップチームの成績は大きな関心事だ。

 クラブの周辺への影響も考えると、今シーズンは大きなターニングポイントと成り得る。すでにJ1残留はほぼ間違いない。それならば、指揮官交代という決断に踏み切り、より大きな目標へ向かってリスタートを切ろうと、クラブは判断したのだろう。

 これまでよりも高い目標へ向かっていく意味では、野心的なチャレンジと言っていい。現状維持を臨むなら、前監督のままでやり過ごすことはできたのだから。

 オーストラリア代表のDFルーカス・ニールを獲得したのも、センターバックとしてのスキルと豊富な経験、それに闘争心をチームに落とし込みたいからだろう。同じセンターバックで21歳の高橋祥平には、様々な意味で恰好の教材となるはずだ。

 勝点53という目標を達成すれば、クラブの判断は正しかったことになる。逆に53に到達できなければ、クラブと小倉新監督は責任を問われることになる。

 いずれにせよ、J1残留を命題としてきたクラブが、一歩前へ踏み出したのは確かだ。この挑戦の行く先は興味深い。(戸塚啓=スポーツライター)

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