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【コラム】戸塚啓

五輪代表が目指す「メダルを獲得するため」の着地点

[ 2012年4月27日 06:00 ]

男子サッカーのU?23日本代表を率いる関塚隆監督
Photo By スポニチ

 ああ、これはオーバーエイジを加えた五輪代表だ──4月25日に行なわれた日本代表合宿の練習試合を観ていて、ふとそんなことを思った。

 ダブルボランチの一角を担う遠藤から、右サイドバックの酒井宏へスルーパスがとおる。清武が酒井宏に連動し、ゴール前のクロスに前田と原口が飛び込む。23歳以下の選手に遠藤、前田を加えたコンビネーションは、なかなかのものだったのだ。

 オーバーエイジの招集には、「時間のなさ」というデメリットがつきまとう。本大会直前にオーバーエイジを加えても、コンビネーションを熟成させる猶予がないのだ。

 有効な方策として考えられるのが、すでに出来上がっているコンビネーションを持ち込むことである。

 アテネ五輪代表を率いた山本昌邦監督は、小野伸二と高原直泰をオーバーエイジに指名した。若年層からともにプレーしてきた彼らの関係性に期待したのである。高原の招集が直前で叶わずに構想は崩れてしまうのだが、オーバーエイジの使い方としては理に適っていた。

 ザッケローニ監督が清武や原口らの五輪世代を招集してきたことで、彼らは日本代表の常連組とプレーしている。香川は言うに及ばずだ。酒井宏、酒井高、宮市、宇佐美、大迫らも、代表との関わりがある。ザックのチームからオーバーエイジを加えても、まったくの白紙からコンビネーションを構築するわけではないのだ。

 たとえば、今野と遠藤を招集したとしよう。GK権田と今野は、FC東京で長くプレーしてきた。連携の不安はない。今野と遠藤は、現所属チームのガンバでのコンビネーションが生かされてくる。国際経験を持った「個」の力が加わるうえに、クラブレベルで培ってきた関係を発揮することができる。オーバーエイジの招集により、複合的にメリットがひろがっていく。

 酒井宏の攻撃参加を最大限に生かすのであれば、柏レイソルのFWをオーバーエイジに指名するのも選択肢のひとつだ。たとえば、日本代表にも招集経験のある田中順也なら、酒井はもちろんアタッカー陣との連携にもある程度のベースがある。

 あとは、クラブの理解を得られるかどうかだ。

 目標とするメダル獲得を前提にすれば、8月10日の3位決定戦か、11日の決勝戦まで試合をすることになる。事前の準備も含めると、五輪代表チームは少なくともリーグ戦を3試合、多ければ5試合を欠場することになる。ナビスコカップの決勝トーナメントに進出すると、準々決勝の2試合も引っ掛かってくる。グループステージ敗退ならリーグ戦の欠場は1試合で済むかもしれないが、議論の出発点は「最大で何試合欠場する」ところに置かれるべきだ。

 クラブ側からすれば、すんなりとはOKしにくい。オーバーエイジを五輪へ送り込む名誉ではなく、戦力ダウンの痛みが先行するのは、避けられないところがある。

 今野と遠藤がオーバーエイジに指名されたら、ガンバは手痛い代償を払うことになるだろう。彼ら抜きである程度の成績を残せたとしても、チーム全体が必要以上に疲弊してしまう可能性がある。シーズン終盤の重要な局面で、夏場の無理がダメージとして跳ね返ってくることは想定内だ。

 スペイン、ホンジュラス、モロッコと戦うグループステージは、十分に突破の可能性がある。勝ち上がることで選手が得る自信は大きい。ロンドン世代のスケールアップは、そのままブラジルW杯へも結びついていく。協会、Jリーグ、クラブが議論を重ね、「メダルを獲得するため」の着地点を見出すことが望まれる。(戸塚啓=スポーツライター)

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