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【コラム】戸塚啓

MOMは酒井宏樹 チーム全体が機能

[ 2012年2月23日 06:00 ]

前半、先制ゴールを決める酒井
Photo By スポニチ

五輪アジア最終予選C組 日本4-0マレーシア
(2月22日 クアラルンプール)
 まずはとにかく、選手たちの頑張りを讃えるべきだろう。2月22日に行なわれたロンドン五輪最終予選で、4-0の快勝をあげたU-23日本代表である。現地で撮影をしたカメラマンに聞くと、ゴール裏は大変な蒸し暑さだったという。座っているだけで、汗が滴ってくるとのことだった。

 そうしたなかで、選手たちは序盤からハードワークをした。ミスはあった。とくに前半は、単純なミスでボールを明け渡していた。しかし、エネルギーを出し惜しみしない姿勢は主導権の掌握につながり、後半になっても活動量が落ちることはなかった。ゲームの最終盤でもなお、球際への早さと激しさを保っていた。出場した選手たちには、本当に「お疲れさまでした」と言いたい。

 MOM(マン・オブ・ザ・マッチ)を選ぶなら、酒井宏樹を推す。35分にあげた先制点は、チームを緊張感から解放した。44分に大迫勇也があげた2点目は、酒井が獲得した直接FKがきっかけとなった。そして、55分には3点目をアシストしている。かといって、酒井の働きばかりが目についたわけではない。得点経過に名前が出てこない山口螢も、小さなリスクを先回りして摘み取っていった。素早い切り替えの意識はチーム全体に浸透していたが、なかでも彼のリアクションの速さは見事だった。

 関塚隆監督の選手起用も、スキがなかっただろう。2月5日のシリア戦を判断材料にすれば、キャプテンの山村和也のスタメン落ちは妥当だ。代わって先発に名を連ねた扇原貴宏は、攻撃のスイッチ役を果たしつつ、リスタートのキッカーの役割も担った。大迫があげた2点目も、扇原がいなければ生まれていなかったかもしれない。

 ピッチに立った11人だけでなく、チーム全体が与えられた仕事をしっかりと遂行した。その結果が、4-0の勝利である。

 試合後には吉報が届いた。マレーシア対日本戦の2時間半後にキックオフされたバーレーン対シリア戦で、シリアが敗れたのである。1点を追いかけていたシリアは、86分にようやく追いついた。ところが、直後の90分にDFのミスから失点をしてしまう。痛恨の敗戦である。ライバルの痛恨事は、我々にとって嬉しいニュースだ。勝ち点12で首位に立った日本は、得失点差でもシリアに4点差をつけて最終戦を迎えることになった。

 3月14日に行なわれるバーレーン戦は、引き分け以上なら自力で出場権を獲得できる状況となった。日本が負けてシリアが勝つと、バーレーンを含めた3か国が勝ち点12で並ぶことになるが、大敗さえしなければ得失点差で首位を守りきれる可能性もある。現時点ではっきりしているのは、日本が圧倒的優位に立ったということだ。

 バーレーン戦はホームゲームだが、直前にJ1、J2は直前の週末に開催される。招集される全選手がJ1クラブ所属だとしても、集合できるのは試合の3日間だ。フィジカルコンディションはクラブでも調整できるが、バーレーン戦へ向けた一体感を醸成していくには、もう少し前からチームを編成したいのが現場の本音だろう。あるいは、Jリーグ開幕前に事前合宿を行なうか。

 Jリーグ各クラブにとってはリーグ開幕を挟んだ大切な時期だが、五輪出場はサッカー界全体の利益である。一時的にはクラブに負担がかかっても、各選手が持ち帰る経験はクラブの財産となる。選手を送り込んでいないクラブにも、五輪予選突破の浮揚効果はもたらされるはずだ。出場権を勝ち取るために、サッカー界全体でバックアップしていくべきである。(戸塚啓=スポーツライター)

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