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【コラム】戸塚啓

指導者も海外移籍を

[ 2011年12月25日 06:00 ]

戸塚啓氏の最新刊『不動の絆』 ベガルタ仙台と手倉森監督の思い(角川書店、税込み1470円)が12月12日に発売。
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 選手の移籍や退団のニュースが、このところ立て続けに発表されている。12月恒例の楽しみのひとつだが、個人的には岡田武史さんの中国スーパーリーグ行きに目をひかれた。杭州緑城の監督就任が、先ごろ発表された。

 実績をあげた監督が他国のクラブや代表からオファーを受けるのは、ヨーロッパや南米だけでなくアジアにおいてもごく当たり前である。日本でもお馴染みのミラン・マチャラは、代表チームだけでもクウェート、サウジアラビア、オマーン、バーレーンの4か国を指揮している。クラブW杯でアル・サッドを3位へ導いたウルグアイ人のホルヘ・ホッサーティも、すでに中東エリアの3つのクラブで采配をふるっている。

 実績を残している監督なら、ライバルとなるチームの情報をそれなりに持っている。大陸や国によって異なるサッカーの違いを、肌で感じているのも強みだ。環境に戸惑うこともない。

 イラクがジーコを招へいしたのも、アジアで結果を残した経験があるからだろう。打倒日本の具体策として、日本を率いたことのあるジーコを呼ぶのは分かりやすい。W杯アジア最終予選で両国が同じグループに入れば、イラクは戦前から心強い武器を持っていることになる。

 杭州緑城が岡田さんに興味を持ったのも、日本代表やJリーグでの監督経験を評価してのことに違いない。中国のクラブがACL制覇を目ざすのであれば、Jリーグ勢とKリーグ勢は最初に越えなければならないハードルだ。日本人監督を招くのは、チームの強化として理に適っている。

 岡田さんの率いる杭州緑城がJリーグ勢の脅威となれば、ACLの戦いがさらに困難となる。中国代表の底上げにも、つながっていくかもしれない。

 その一方で、アジアのレベルが上がれば、日本の強化にも結びついていく。90年代前半を起点とする日本の急成長は、韓国に危機感をもたらした。アジア地区全体のレベルも上がり、結果的にアジア勢がワールドカップで勝てるようにもなってきた。

 サッカー市場の拡大という意味でも、指導者の“海外移籍”は歓迎すべきだろう。

 今年もJクラブが新たに増えたが、S級ライセンス取得者も増えている。Jクラブで働ける指導者には限りがあり、S級ライセンス取得者が活躍できる機会が、これから飛躍的に拡大するとは考えにくい。もう何年も前から、国内の循環だけでは難しい時期を迎えている。

 それだけに、海外へ出ていく選択肢はあっていい。アジア各国で日本の指導者が活躍すれば、日本サッカー界全体としてライバル国の情報を共有できるようになる。少なくとも中国に関する情報は、岡田さんがいる限り困らない。大局的な視野に立てば、プラス材料はいくらでもあげることができるはずだ。

 杭州緑城の監督として岡田さんが凱旋すれば、ACLにも新たな魅力が加わる。サッカーの情報発信力を高めていく意味でも、指導者も海外移籍を目ざしてほしいと思うのだ。(戸塚啓=スポーツライター)

 戸塚啓氏の最新刊『不動の絆』ベガルタ仙台と手倉森監督の思い(角川書店、税込み1470円)が12月12日に発売。ベガルタ仙台の2011年シーズンの軌跡を辿ったもので、震災を受けたチームが何を支えに戦ったのか。過去最高位の4位になった要因は何だったのか。手倉森誠監督の力強い言葉を軸に描いている。

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