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【コラム】戸塚啓

夢と希望に溢れ

[ 2011年7月10日 06:00 ]

<日本2-3ブラジル>ドリブルで攻め込む石毛
Photo By AP

 夢と希望に溢れたゲームだったと思う。U-17ワールドカップ準々決勝の日本対ブラジル戦である。

 今回のU-17ワールドカップには、アジアから朝鮮民主主義人民共和国(以下北朝鮮)、ウズベキスタン、日本、オーストラリアが出場した。決勝トーナメントへ進出したのは北朝鮮を除く3か国で、ベスト8まで勝ち上がったのはウズベキスタンと日本だった。
アジア王者として乗り込んだ北朝鮮は、2分け1敗でグループリーグ敗退となっている。

 対戦相手に恵まれたか否かはもちろんある。ただ、アジアを制した北朝鮮が決勝トーナメントへ進めず、3位だった日本がブラジルと接戦を演じたのは、アジアの予選を勝ち抜くことがいかに重要なのかを示唆している。

 「目標はもちろん7試合やることです。でも、いまのままでは無理かなあ……」

 2月下旬の国内キャンプを取材した際、吉武博文監督はこんな話をしていた。「無理かなあ」というのが謙遜だったとしても、7試合=決勝戦まで勝ち進むことをイメージしにくかったのは事実だ。大学生やJクラブとの練習試合では、技術を発揮する以前に精神的に気押されてしまうようなところがあった。

 それがどうだろう。メキシコで戦った彼らは、伸び伸びと、堂々とプレーしていた。吉武監督が掲げた「共鳴する」というキーワードのもとで、「全員攻撃、全員守備」のサッカーが展開されていた。

 ブラジル側からすれば、詰めの甘いゲームである。60分に3-0としたところで、そのまま逃げ切らなければいけないはずだ。いかにサッカー王国でも、この年代はナイーブさを残すのかもしれない。

 だとしても、日本の追い上げは称賛に値する。対戦相手はブラジルで、残り時間は30分で、スコアは0-3──絶望的な気持ちに陥りかねない状況下で、2点を奪い返した。延長戦まであと一歩まで迫った。最後まで諦めない粘り強さと反発力は、見事だったと言っていい。

 昨秋の予選突破からさらに半年以上の強化が進められたことで、チームとしても、選手としても、逞しさを増していったのだろう。アジアを勝ち抜き、世界へ飛び出すことで成長のスピードを上げていった79年組を思い起こさせる。

 「近い将来にA代表に入りたいではなく、いま入るんだという気持ちを持とうと。A代表は雲の上の存在ではなく、割って入るぐらいの気持ちでやらないとダメだということは、選手たちに伝えているんです」

 世界の8強という成績を残したことで、吉武監督が語りかけてきた言葉は、選手たちの胸の奥深く刻まれたに違いない。メキシコで世界にインパクトを与えたこの世代は、3年後に20歳の誕生日を迎える。2014年のワールドカップブラジル大会出場は、きわめて現実的な目標だ。

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