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【コラム】戸塚啓

ベガルタ仙台の快進撃

[ 2011年5月5日 06:00 ]

<仙台1-0福岡>後半33分、決勝ゴールを決めた赤嶺(中央)を祝福する梁勇基(右)ら仙台イレブン
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 ベガルタ仙台が好調だ。4月23日のリーグ戦再開後は3連勝で、通算でも3勝1分けの負けなしである。勝ち点をいち早く2ケタに乗せ、リーク戦首位に立っている(9節終了現在)。

 被災地の思いを背負うベガルタは、ひと際高いモチベーションで臨んでいる。相手を上回る勝利への執着心が、勝因に占める割合は確かに大きい。ボールへの寄せは速くて強く、それでいて人数をかけることもできている。

 ただ、気持ちだけで勝てるわけではないだろう。もしそうだとしたら、Jリーグのレベルが疑われてしまう。相手チームの試合運びに詰めの甘さが目につくものの、ベガルタは戦略的にも勝利にふさわしい戦いを見せている。

 手倉森監督の采配が効果的だ。

 再開初戦となった川崎F戦では、後半途中からシステムを4-3-3から4-4-2へ変更した。1トップの赤嶺に対するファウルが増えていると読み取り、相手センターバックへさらに圧力をかけていく意図である。果たして、87分に生まれた逆転ゴールは、途中交代のFW中島がつかんだ直接FKから生まれた。

 続く29日の浦和戦では、4-4-2でスタートする。試合後の記者会見では「フェイントですね」と笑顔を浮かべたが、「同じメンバーで同じ登録なら、相手は川崎F戦と同じシステムと考えるだろう」という想定に立ったものだ。そのうえで、ホームにふさわしい推進力を得るために、前へ抜け出す力を持った太田を2トップの一角に指名したのだった。

 ここまで対戦してきた川崎F、浦和、福岡には、ある共通項がある。どのチームの監督も、J1で采配をふるうのは初めてなのだ。浦和を1-0で退けた試合後、手倉森監督はこう話している。

 「去年のJ1での自分を思い出すと、何となく相手の心理が分かる。相馬監督もペトロヴィッチ監督も、1年目ですからね。こっちはJ1では2年目で、浦和戦のメンバーみたいなことが出来るようになってきました」

 マルキーニョスの離脱という想定外のアクシデントを乗り越え、昨年までのベースである4-4-2に4-3-3、4-2-3-1といったオプションを加えたのは、チーム全体の柔軟性にも理由が求められる。それによって、選手を交代することなく、同じメンバーでシステムを変えることができているのだ。守備の安定をはかるための3ボランチも用意されている。「僕の意図を選手が汲み取ってくれて、数字に捕らわれずに柔軟に対応できるようになっている」と、指揮官もチームの成長を認める。

 さて、ベガルタの快進撃はどこまで続くのだろう。ゴールデンウィークの連戦を締めくくる7日はセレッソ大阪がで、1週間後はジュビロ磐田が相手である。

 セレッソのレヴィー・クルピ監督は、Jリーグで通算7度目のシーズンを迎えている。ジュビロの柳下監督は、J2札幌でのキャリアも含めてJリーグで8年目のシーズンだ。

 J1復帰1年目の昨シーズンも、ベガルタは好スタートをきった。だが、6節の清水戦で1-5の大敗を喫し、そこから14試合連続で白星が遠ざかった苦い経験がある。
J1での経験豊富な指揮官を相手に、手倉森監督はどのような采配をふるうのか。被災地の復興を担うベガルタの真価は、ここから問われていくことになる。(戸塚啓=スポーツライター)

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