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【コラム】西部謙司

優れた選手と必要な選手

[ 2013年7月19日 06:00 ]

日本代表待望論が根強いDF田中マルクス闘莉王
Photo By スポニチ

 東アジアカップのメンバー23人が発表された。名古屋グランパスの重鎮、闘莉王は招集されなかった。3試合9失点のコンフェデレーションズカップをうけ、ファンやメディアの間に闘莉王待望論もあったが、今回のメンバーに選ばれなかった件に意外性はないと思っている。

 闘莉王の実力に疑問はない。空中戦の強さはJリーグ屈指、的確な読み、コンタクトにも強く、フィード力もある。さらにリーダーシップも素晴らしい。最も完成されたセンターバックといっていいだろう。ただ、完璧な選手ではない。

 闘莉王に欠けているのはスピードだ。日本代表はボールを支配して押し込み、奪われたらなるべく前線からプレッシャーをかけて守る、というスタイルでプレーしている。また、そういう流れになったときに強みが出やすい。反対に、自陣に押し込まれた状態で耐えきる力が足りない。それがはっきりしたのがコンフェデ杯の3試合だった。

 だからこそ守備強化のために闘莉王というのは一理ある。しかし、ザッケローニ監督は押し込まれることを前提にしたチームは作らないと思う。メキシコ戦のように押し込むつもりで押し込まれてしまうケースはありえるとしても、ブラジル戦のように最初から引くつもりはないだろう。となると、まず必要とされるのは逆襲に対する守備力だ。

 何もかもが揃ったセンターバックは多くない。チアゴ・シルバのような逸材は世界標準を超えている。多少速さに難があっても闘莉王は優れた選手だ。例えば今野泰幸とのコンビなら闘莉王の起用はありだと思う。しかし、吉田麻也と並べてしまうと2人ともスピードに難のあるセンターバックになってしまって逆襲に対する守備に弱点を抱える。W杯南アフリカ大会で闘莉王、中澤佑二のコンビが活躍したのは、周知のとおり日本が自陣に引いてプレーしていたからだ。さほどスプリントを要求されない守備ならば、闘莉王&中澤は代表史上最強だった。

 ザッケローニ監督は南ア方式をとっていない。岡田武史前監督もそうしたのは最後の最後だった。招集されたセンターバックでは、森重真人と千葉和彦が“今野タイプ”で、彼らと闘莉王を組み合わせるのは可能だが、闘莉王を“いま”テストする必要はない。実力はわかっているし国際試合の経験も豊富、テストするなら今野と組み合わせないと意味がない。そう考えると闘莉王を招集しなかったことに驚きはない。(西部謙司=スポーツライター)

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