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【コラム】西部謙司

日本サッカーの長所

[ 2013年4月5日 06:00 ]

3月16日第3節仙台戦でゴールを決めた柏のレアンドロ・ドミンゲス
Photo By スポニチ

 柏レイソルのエース、Jリーグのトッププレーヤーであるレアンドロ・ドミンゲスは来日当初、「自分はここではプレーできない」とショックを受けたそうだ。

 当時の柏はJ2である。次のシーズンにはJ1に昇格、いきなり優勝を成し遂げるわけだが、レアンドロ・ドミンゲスが移籍したときは日本のトップチームではない。ブラジルのヴィトーリアで活躍し、コリンチャンスからもオファーが来ていた名手が「 ここでは無理」と思ったのは、「あまりにもテンポが速くてついていけない」と感じたからだった。

 サッカーは世界のどこにでもあり、サッカーはサッカーなのだが、やはり国によって違いがある。ブラジルでは得点に絡むことだけを要求されていたレアンドロ・ドミンゲスだが、日本では守備をしなければいけなかった。彼が守らなければ、相手の選手が攻め上がってフリーになり、味方のピンチを招いてしまう。ブラジルならば、ひと休みしてからでも間に合うものが、日本の選手は休みなくプレーするので、それについていかなければならない。

 個人としてはブラジルにもスピードのある選手はいる。いや、その点ではブラジルのほうが上に違いない。しかし、そういう選手でも走り続けることはない。つまるところ、レアンドロ・ドミンゲスが戸惑ったのは日本選手の勤勉さだった。

 試合ですぐに息が上がってしまい、これでは無理だと観念しかけたところでケガをした。それがかえって「幸運だった」と言う。外から日本のサッカーをじっくり観察することができたからだ。日本で成功するために何が必要で、何が自分に足りないか分析して、覚悟を決めることができた。

 いうまでもなくブラジルはサッカー大国であり、選手は世界でもトップレベルである。しかし、レアンドロ・ドミンゲスは「戦術に関しては日本のほうがレベルが高い」と言い切っていた。試合をすればブラジルのほうが強いかもしれない。しかし、ブラジルの選手が必ず日本で成功できるとはかぎらず、日本のほうが優れている部分、学ぶべきところもある。外国のサッカーに順応していくのは簡単ではないのだ。

 近年は、ヨーロッパで活躍する日本人選手が増えた。彼らはたんにサッカーが上手いのではなく、異なるサッカー文化に順応する能力も高い。現在の日本代表だけでなく、将来の日本サッカーにとって大きな財産になるはずだ。(西部謙司=スポーツライター)

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