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【コラム】西部謙司

超然のメッシ

[ 2013年1月11日 06:00 ]

4年連続でFIFAバロンドールを受賞したリオネル・メッシ
Photo By AP

 リオネル・メッシが4年連続でFIFAバロンドールを受賞した。

 FIFA世界最優秀選手賞とフランスフットボール誌主催のバロンドールが合体して、今回が3回目になるが、すべてメッシが受賞している。合体前のバロンドールを合わせても4年連続は初、ミッシェル・プラティニの3年連続受賞(83、84、85年)を超えた。3回受賞はヨハン・クライフ、マルコ・ファンバステン、プラティニの3人がいるが、4回はメッシしかいない。

 バロンドールは創設当初から異論があった。第1回の受賞者はスタンリー・マシューズだったが、2位のアルフレード・ディステファノの受賞が妥当という意見も少なくなかった。64年にデニス・ローが受賞したときには、次点だったルイス・スアレスは「曲芸でもしろというのか」と憤ったという。スアレスはヨーロッパ選手権とチャンピオンカップ優勝の原動力だった。74年に2位だったフランツ・ベッケンバウアーもチャンピオンズカップとワールドカップに優勝しながら獲れず、やはり「これ以上、何をすればいいのか」と嘆いた(この年はクライフが受賞)。マンチェスター・ユナイテッドで“トレブル”を達成したデビッド・ベッカムも獲れなかった(リバウドが受賞)。

 バロンドールは個人賞なので、タイトルを獲っていなくても構わない。けれどもサッカーはチームゲームであり、基本的にはその年の最も重要なタイトル獲得に貢献した選手が受賞することが多い。そのほうが無難でもあった。フランスフットボールが主催していた時代は各国記者の投票で決めていたが、もちろんすべての試合を見ている人はいない。フランス語が投票者の条件だったために、必ずしもサッカーの専門記者が投票しているわけでもなく、ときには首を傾げたくなるような選出結果もあった。

 FIFAバロンドールとなってからは、各国代表チームの監督と主将も投票に加わるようになった。こちらは当然エキスパートだが、それだけに単純に能力の高い選手に票が集まりやすく、いってみれば人気投票に近いものになった。

 2012年のメッシはコパデルレイしかタイトルを獲っていない。2位のクリスティアーノ・ロナウドはスペインリーグ優勝、3位のアンドレス・イニエスタはユーロで優勝している。獲得タイトルはこちらのほうに重みがある。しかし、メッシはダントツの得票で受賞した。そして、その結果は大方の予想どおりでもあった。獲得タイトルうんぬんを超越した活躍ぶりだったからだ。

 メッシは史上最高クラスの名手である。また、バルセロナは史上最高クラスのチームだ。メッシが普通にプレーしているだけでも毎年バロンドールを受賞しかねない状況になっている。それだけメッシが凄いということだが、バロンドールが味気ない賞になってしまった感も否めない。他の選手は、もう何をしてもバロンドールには手が届かない気がしているのではないだろうか。(西部謙司=スポーツライター)

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