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【コラム】西部謙司

ビエルサとビルバオ

[ 2012年10月19日 06:00 ]

 日本代表の欧州遠征のついでに、スペインのビルバオに寄ってみた。マルセロ・ビエルサ監督のトレーニングに興味があったからだ。

 昨季、アスレティック・ビルバオの監督に就任したビエルサは、半年も経たないうちにチームを変貌させている。ビルバオといえば、バスク人の純血チームらしく激しい肉弾戦が持ち味だった。それが、ビエルサ監督の就任後はパスサッカーに変わったのだ。

 バルセロナと接戦を演じたり、コパデルレイとELの 決勝に進出するなど、昨季のビルバオは話題のチームになった。今季は、シーズンのはじめに練習場の工事の遅れに怒ったビエルサと会長との不仲が表面化するなど、ゴタゴタが絶えない状況になっている。

 ただ、トレーニングはいつもどおり粛々と行われていた。練習開始直前のピッチは、さながらナスカの地上絵である。人形やポールやテープで、さまざまな模様が描かれている。そこで短い時間に次々とメニューを消化。対人練習はほとんどなく、徹底的にドリル形式ばかりだ。ピッチを2面使っての4カ所同時進行もあり、各メニューはそれぞれコーチが指揮を執っている。ビエルサはときどき手にしたメモを見ながら、選手たちの動きを観察しているだけ。サッカーの練習というより、工場の流れ作業 か工事現場みたいだった。

 ビエルサ監督のワーカホリックぶりは有名だ。練習時間も長いし、選手やコーチングスタッフの負担は相当なものだと思う。実際、けっこう息が詰まっているとも聞く。

 ところで、こうした仕事中毒の監督に最も適した仕事場はどこかと考えると、たぶん日本なのだろうと思う。世界的に変人で通っている人物だが、日本ならきっと仕事熱心な立派な人としてどこよりも尊敬されるのではないだろうか。(西部謙司=スポーツライター)

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