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【コラム】西部謙司

サンフレッチェ広島の“リスク”

[ 2012年9月28日 06:00 ]

 9月22日のJ1第26節、サンフレッチェ広島は2-1で名古屋グランパスを破り、首位をキープした。ロスタイムでの森脇良太による劇的な決勝ゴールが印象的な試合だったが、先制点に広島らしさが 表れていた。

 GK西川周作から中央の森崎和幸の足下にショートパス、森崎和はそのまま西川に戻す。ここで名古屋はいっせいにプレスをかけた。森崎に詰めていったケネディは、そのままボールを追って西川へ詰め寄る。しかし、西川は自分の右側に引いてきた千葉和彦へパス、千葉は詰め切られる前にセンターサークルの手前にいた高萩洋次郎へ長いパスを送った。

 高萩は背後から厳しくマークされていたが、巧みにスルー。ボールの抜けた先には清水航平がフリーで待っていた。ここまでは広島のパス回しに執拗なプレッシャーをかけ続けた名古屋が有利に見えた。だが、結局ボールを奪い損ねて形成が一気に逆転している。清水はドリブルで前進、ダニエルを鋭いフェイントで抜き去り、左足のシュートでニアサイドをぶち抜いた。

 広島は自陣の深いところでもパスをつなぐ。この先制点のときのように、GKもパスワークに加わる。相手にもそれはわかっているから、機会をとらえて前線から一気にプレスしてボールを奪おうとする。ここで奪ってしまえば即得点のチャンスになるからだ。ところが、そのプレスをかいくぐられてしまうと、一転して広島にビッグチャンスを与えてしまう。広島のパスワークは肉を切らせて骨を断つ、見た目にぎりぎりな感じなのだが、GK西川によると「相手が来てくれたほうが楽しい」そうだ。

 今季は森保一監督が守備を整備し、自陣でのパス回しも時間帯や状況に応じては大きく蹴り出すなど、よりリスク管理をするようになっている。それが今季好調の大きな理由なのだが、広島“らしさ”を失ったわけではない。

 独特な広島のプレースタイルは、現在は浦和レッズの指揮を執るミハイロ・ペトロヴィッチ監督が植え付けたものだ。「サッカーに恐れはいらない」と、前監督はよく言っていた。相手を挑発するような自陣でのパス回し、1トップと2シャドーによる素早いコンビネーション、サイドからのドリブル突破など、“ミシャ”が残していったサッカーには、選手自身が楽しめるような要素や仕掛けがある。失敗を恐れるのではなく、楽しむのがサッカーだというように。

 残り試合が少なくなれば、広島の選手には未知の精神的重圧もかかってくるかもしれない。ただ、多くの選手たちが「それもまた楽しみ」と言っているのは広島らしい。(西部謙司=スポーツライター)

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