×

【コラム】西部謙司

バルサ化の落とし穴

[ 2012年1月20日 06:00 ]

【バルサ化の落とし穴】劣化コピーの競争になっている感も否めない…
Photo By AP

 Jリーグが動き始めた。新体制が発表になり、すでに新たなシーズンに向けてトレーニングを開始したチームもある。それぞれのクラブが、新シーズンに向けての抱負やチーム作りについて語る中で、「攻撃的なチーム」という言葉がけっこうな頻度で出てきたはずだ。

 以前、ある雑誌のアンケート調査をみたところ、Jリーグの多くの監督が気になるチームとして「バルセロナ」をあげていた。バルセロナは現在世界一の強豪チームであり、そのプレーは世界中の選手、監督の憧れになっている。しかし、バルセロナを目指すのと、バルセロナのようなプレーをすることは同じではない。

 バルセロナを見てしまうと真似したくなる。ところが、バルサをコピーしても残念ながら劣化コピーにしかならない。

 バルサはパスが回る、ポゼッションが高い。同じようにパスを回そうとすると、ある程度はできる。なんとなくバルサに近づいた気がする。だが、問題はここからなのだ。課題はざっと4つある。

(1) パスが回る(これはある程度できるようになるのだが…)
(2) 敵陣でボールを奪える
(3) 引かれても崩せる
(4) 点がとれる

 まず、(2)の敵陣でのボール奪取が難しい。J1でも出来ているチームはない。ハーフラインまでリトリートしてゾーンの網を張るのがスタンダードである。ところが、敵陣でボールを奪うには“人”を抑え込んでいく守備が必要で、従来のゾーンの感覚とは違った守り方になる。これができない。敵陣で奪えないと、せっかくパスを回して押し込んでもいちいち戻らなくてはならず、そのぶん相手にボールを支配されるからポゼッションも上がらない。つまり、パスが回るといってもバルサのように70%近く支配するのは到底無理な話になってしまう。

 (3)の引かれた場合に崩すのは、さらに難しい。ポゼッションしたければ、ある程度攻撃のスピードは諦めなければならず、どうしても引かれるケースが多くなる。引かれても崩せるならいいのだが、そうでないとただキープしているだけになり、おまけに敵陣でのプレスが不十分だとまともにカウンターを食らうことに。

 (1)から(4)がすべて上手くいっても、肝心のフィニッシュがダメなら当然点はとれない。バルセロナには常に世界一流のFWがプレーしているが、そんなチームは世界でも例外といっていいだろう。

 バルセロナのようになりたければ、バルセロナの真似をしてはいけないのだと思う。チームの条件が違うのだから、違う方法で、やがてはバルサに近づくしかないのではないか。世界中である種のバルサ化が進んでいるが、劣化コピーの競争になっている感も否めない。(西部謙司=スポーツライター)

続きを表示

この記事のフォト

バックナンバー

もっと見る